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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

「調子や感覚ではなく、数値として表れる成長が
本番での“根拠ある自信”につながるんです」

 

根拠ある自信を持ってパリ五輪へ

雌伏の時を超え、心身ともに充実期を迎えた太田さんは、2023年6月に開催されたアジア選手権のスプリント、チームスプリント、ケイリンの全種目でメダルを獲得するという大活躍を見せる。特にスプリントでは日本勢が表彰台を独占する中、日本記録を更新しての優勝と、パリ五輪へ向けて大きな弾みをつける結果となった。その手応えを、太田さんはどのように感じたのだろうか。

「アジア選手権では、自分の実力を考えるとメダルを取るのが当たり前だと思っていましたし、特別に調子が良かったわけではありませんが、逆にその状態でも結果が出るレベルまできたのだとわかったことは嬉しかったですね。今は、普段からペダルを踏むパワーや回転数を測定しながらトレーニングをしていて、その数値が目に見えてぐんと上がっているので、調子とか感覚とかではなく、数値、つまり根拠のある自信を持って本番に臨めているんです。私は本番時のアドレナリンでいつも以上のパフォーマンスを出せるタイプではないだけに、どれだけ良い練習を積めるかという点が非常に重要ですし、練習も本番と同じくらい緊張してやっています。そのように練習と本番が嚙み合っているからこそ、今の結果につながっているのだと思います」

その後、太田さんは8月に開催された世界選手権にも出場し、ケイリンでは過去最高順位を更新するなど、世界トップレベルの選手と渡り合う準備ができていることを示した。残り1年を切ったパリ五輪まで、これからどのように状態を上げていくのか、そのビジョンについて率直に語ってもらった。

「正直、順位そのものにはまだまだ満足していませんが、課題だった準々決勝を勝ち上がって、決勝こそ逃したものの五輪本番と同じ5本を走り切れたというのは大きな収穫でした。次へ生かせる反省点も見つかりましたし、今はそれを踏まえながら、ギアをどうするのかなどの具体的な部分まで踏み込んでコーチと作戦会議をしています。これから先は、ガールズケイリンのレースにも出つつ、体重や筋肉量の調整を含め、衣食住を徹底的に管理していくつもりです。嬉しいことに、近年は日本女子全体のレベルが上がっていて、ナショナルチームのメンバー同士で練習中から切磋琢磨できています。また、男子選手と一緒に練習できる環境も整っているので、そんなチームに身を置けることに感謝しつつ、五輪本番へ向けて最後の追い込みをしていきたいですね」

競技に懸ける思いと、その先の未来

自転車競技とガールズケイリン、どちらもおろそかにすることなく走り続ける太田さんに、あらためて、それぞれの競技にかける思いを訊ねてみた。

「ルールもマシンも違うので、両者の違いについて語ろうとすると何から話せば良いかわからないくらい違うのですが(笑)、競技に臨んでいる時の私自身の気持ちは同じなんです。勝ちたい、強くなりたい。その目標に向かってひたむきに努力をしています。見る人にとっては、自転車競技は純粋なスポーツとして、80キロのスピードで走る車体がコンマ数秒を競っているスリルを間近で見られる魅力がありますよね。一方のガールズケイリンは、お客様がお金をかけてくれて、その期待を背負いながら選手が一生懸命に走るワクワク感があります。中には、ギャンブルというだけで良い印象を抱かない方もいらっしゃるかと思いますが、競輪の売上金の一部は、地域の駐輪場建設やスポーツ振興に充てられていて、実は社会貢献につながっているんです。そういう意味で、私は競輪は日本を支えるスポーツだという誇りを持っていますし、もっと多くの方にこのことを知っていただきたいと思っています」

どこまでも真剣に競技と向き合いながら、自分の人生を楽しむというスタイルを確立させた太田さん。最後に、自身の未来をどのように思い描いているのか訊ねてみると、少し意外な、けれども太田さんらしい答えが返ってきた。

「選手として目指すところは非常に明確で、自転車競技ではパリ五輪でメダルを取ること、ガールズケイリンではタイトルを獲得して、グランプリで優勝することが目標です。ただ、選手としてずっと強くいられるわけではないので、その先のこと、セカンドキャリアについても少し考えていて――実は、“女社長”になりたいという夢も抱いているんです。私は普段からInstagramなどで発信しているように、メイクやファッションが大好きなのですが、日本のファッションカルチャーは細身寄りで、私のように体を鍛えているアスリート体形の人は着る服にけっこう困っているんですよ。だから、フィットネス体形をきれいに見せられるような、新しくて可愛い服を手がけるアパレル事業を、自分で立ち上げられたらなと考えています。あるいは、大学時代にジムトレーナーをしていた経験を生かして、ジム経営というのもありかもしれません。もちろん、選手としてできることを全うした後ですが、そんな“女社長”になることを思い描きながら(笑)、これからも自分の人生を歩んでいこうと思います」

(取材:2023年9月)
取材 / 文;鴨志田 玲緒
写真:竹内洋平

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