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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

「自分がロールモデルとなり、多くの人が
持っている高齢者に対する既成概念を壊したい」

 

「愛」の存在が人間同士を争わせる

志穂美氏は先述したような花を通じたさまざまな支援活動の他、講師として各地で講演も行っている。コロナ禍や深刻化する環境問題、あるいは海外で戦争が起きるなど、世界が混迷を深める中、今の時代を生きる人たちに向けて伝えたいことを力強く語ってもらった。

「昔からなぜ人間同士の争いが絶えないのだろうかと考えると、それは愛があるからなのではないかと私は思うんです。一見すると矛盾しているように感じるかもしれません。でも例えば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がかつては自分たちのものだった土地を取り返したいと思うのも、その根源には郷土愛があるからではないでしょうか。他方、ウクライナの側からすれば、自分たちは既に独立しているのだから放っておいてほしいと思うはずです。米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)に加盟しようと、われわれの自由ではないか、と。それも一種の愛の発露だと言えますよね。そうした双方の愛と愛がぶつかり合って戦争になるというのはものすごい矛盾ですが、残念ながら人間が人間である限りこれはなくならないのではないかと思います。例えば、アメリカや日本のような民主主義国家とロシアや中国のような権威主義国家では根本的に考え方が異なりますし政治体制も違うので、両者が相対しているうちはおそらく戦争は根絶しないでしょう。本来、誰も人を殺したいとは思わないはずなのに、自分たちの土地や愛する人を『守りたい』という思いがぶつかり合うと争いになってしまう···。今の日本では皆が『人を殺すなんてありえない』と考えているはずですが、戦国時代には兄弟同士でも殺し合っていましたよね。さらに言えば、わずか80年前にも日本は戦争をしていました。では、この先どうすればいいのか?例えば民主化運動によって、1989年にベルリンの壁が、1991年にソビエト連邦が崩壊したように、『独裁政治は絶対におかしい』と多くの人が声を上げ続ければ、どれくらいかかるかはわかりませんが、もしかしたら状況は変わるかもしれない――私はそう考えています」

既成概念を嫌い、挑戦することを好む

2023年2月に逝去した映画評論家の山根貞男氏はかつて、志穂美氏のことを「透明感があってすがすがしい。爽やかなたくましさが魅力」と評した。現在も、柔と剛、女性らしさと強さを併せ待ち、多彩な魅力を兼ね備えている志穂美氏だが、そんな同氏に何かモットーのようなものはあるのだろうか。

「実は最初につくったお花のタイトルが『いちかばちか』で、2つめのタイトルが『当たって砕けろ』だったんです。だから、私の根底にはそういった信条があるのかもしれません。それから前述しましたように、昔から既成概念が嫌いで、挑戦することが好きでした。挑戦しようかどうかで悩むのと、挑戦し失敗したうえで悩むのとでは、絶対に後者のほうがいいですよね。また私の経験上、人間は頭の中に描けることであればおおむね実現可能だと考えています。重要なのは、やるかやらないか。あるいは、途中で投げ出さずに、やれるところまでやったかどうか。そういったことがその後の人生を左右すると思っています」
 

目標はアクションのできるおばあちゃん

国内最大級の国際園芸展示会である「世界らん展」や日本最大規模のガーデニングの祭典「国際バラとガーデニングショウ」に作品を展示したり、フラワーワークショップを開催したりするなど、67歳の今も花創作家として精力的に活動している志穂美氏。インタビューの最後に、改めて、今後やってみたいことについてうかがった。

「先ほどもお話ししたように、目標はアクションのできるおばあちゃんになることです(笑)。例えば、ひざが痛いという60、70代の人たちに向けたテレビCMをよく目にしますが、日本におけるシニア世代のイメージは概してああいったものだと思います。60代を超えると足が痛くなって走れなくなったり、階段を上るのがきつくなったりする、と。でも、それは誰が決めたことなんですか?と私は思うんです。あのようなCMを見ると、高齢になれば皆がそうなるものだというイメージを植え付けられますよね。でも、それなりにきちんと訓練した日常生活を送っていれば、70代になっても走ることはできますし、足も上がると私は確信しています。訓練なんて大層なことではなくても、日々の練習がそうさせてくれると思います。もし実際にそういうロールモデルが世の中にいれば、シニア世代の多くは『自分にもできるかもしれない』と感じるはず――だから、私がアクションのできるおばあちゃんになることで、いやいや、例えアクションでなくても活発に動けるおばあちゃん役ができれば、多くの日本人がとらわれている高齢者に対する既成概念を壊すことができれば、本望ですね。それは半ば自分の使命であるとも考えるようになりました」
 

志穂美氏は東日本大震災復興支援・チベット難民キャンプ支援としてフラワーアレンジメントの写真集『Flower Arrangement INSPIRE 〜いちかばちか〜』を自費出版し、売り上げ金を全額寄付するなど、花を通じた社会活動にも積極的に取り組んでいる。(写真左)「2023年3月11日  東日本大震災追悼法要『花あかり』 奉納献花」(上)「2016年 世界らん展  東京ドーム 特別展示『経』ーたていとー」(下)「2014年3月  薬師寺 修二会花会式 国宝「東院堂」にて『聖観世音菩薩に捧げる花展』奉納

 

(取材:2023年7月)
取材 / 文:徳永 隆宏
写真:竹内洋平

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