巻頭企画天馬空を行く
「才能がない、そう自分で思っているうちはまだ
突き詰められる。もう一歩先へ行けるんです」
限界を決めず自分の可能性を探求する
現役を退いてからの武蔵氏は、ロックと格闘技を融合させたイベント「MUSASHI ROCK FESTIVAL」を主催したり、俳優としてドラマ・映画に出演したり、格闘技の魅力を発信するYouTubeチャンネルを運営したりと、非常に多彩な分野で活躍している。その活動の根底には、選手時代から変わらない初心がある。
「例えば映画については、子どもの頃からずっと好きであるとはいえ、自分で演技をするという点ではまったくの素人ですよね。でも、私はそれで物怖じすることはなくて、むしろ今の自分がどのくらいやれるのか、その可能性を見てみたいと思うんです。これは、格闘技を始めた時の『自分はどこまで強くなれるのか』という感覚と似ているかもしれません。主催している『MUSASHI ROCK FESTIVAL』についても、会場にいる全員がアドレナリンを出して盛り上がっている音楽ライブと格闘技の類似性を感じて、これを融合させたらどんな化学変化が起こるのだろうというワクワク感から始めたものです。実際、これまで格闘技をあまり見てこなかった音楽ファンの方々も、イベント中のダウンシーンではものすごく盛り上がってくださって、心からやってよかったと思いました。これからも、自分がやりたいと感じたことは分野を問わず何でもチャレンジしていきたいですね」
新たなチャレンジ、その次なる一歩として武蔵氏は現在、「M.M.A.(Mixed Monster Attack)」というオリジナルの釣り具ブランドを立ち上げ、釣竿のプロデュースに力を注いでいる。実は、同氏にとって釣りは格闘技と同じくらい思い入れがあるものだという。
「私は小学生になる前から釣りが大好きで、趣味として暇さえあればずっと釣りをしてきたので、実はキャリアとしては格闘技より長いくらいなんです(笑)。釣竿一本で世界中を渡り歩いて、怪魚と呼ばれる“ヘビー級のファイター”たちと戦う。そんな体験を多くの方に味わっていただきたくて、『M.M.A. United』というパックロッド(複数に分割してコンパクトに収納できる竿)のシリーズをプロデュースしました。私自身も愛用していて、先日はタイでバラマンディという巨大魚を釣り上げてきたところです。皆さんにも、ぜひこの竿を日本刀のように持ち歩いていただけたらと思います。今後は、船上でのジギングでマグロやヒラマサのような大物と渡り合える竿など、いろいろなスタイルに合わせた竿もどんどんプロデュースしたいですね」
自分自身の可能性を信じ、何事にも前向きに取り組む生き様を体現する武蔵氏。しかし世の多くの人は、未知の物事に取り組んだり、壁にぶつかったりした時に「自分には才能がないかもしれない」と立ち止まってしまうものだ。そんな人たちに向けて、最後に同氏ならではの哲学を交えながらメッセージを送ってもらった。

「私も、格闘技において自分にセンスがあったとは思っていません。今でも忘れないのが、K-1に転向してすぐ、オランダへ武者修行へ行った時のことです。現地の有名なジムを3つ回ったのですが、どこへ行っても『道場破りが来たぞ』というただならぬ雰囲気で迎えられ、自分より小さい相手にも関係なく完全にやられて。ご飯が食べられないくらい口の中を切って、いや応なく自信を喪失した私は、帰りの飛行機の中で格闘技を辞めようと思いました。でも、日本に近付くにつれて、『好きでこの道を選んで、今でも格闘技は好きなのに、これを辞めて次に何をやるんだ?それを続けられるのか?』という自分の心の声が強くなって、帰国する頃には、やっぱりこの道しかないと気持ちが切り替わっていたんです。あの時、踏みとどまることができたから、私はK-1 WORLD GPで準優勝することができたし、今こうして活動できているのだと思います。そんな私が伝えたいのは、『才能がない、向いていないと自分で思っているうちは、まだまだ突き詰められる』ということです。自分で限界を決めずに、あと一歩、もう少し先まで行ってみる。そのためには自分が信じたものを貫き通す精神力も求められるのですが、情報社会であっちが良い、こっちが良いと惑わされがちな現代だからこそ、やると決めたことはやり抜いてほしいですね。それによって生まれる自信は、きっと何より強固なものになるはずです」
(取材:2025年1月)
取材 / 文:鴨志田 玲緒
写真:竹内洋平
巻頭企画 天馬空を行く
- マルチタレント/ 歌手 中川 翔子
- ロンドン五輪ボクシングミドル級金メダリスト / 元WBA世界ミドル級スーパー王者 村田 諒太
- 元K-1ファイター 武蔵
- ヒップホップアーティスト / 実業家 AK-69
- サンドファクトリー / K-POP FACTORY CEO キム・ミンソク
- 元K-1スーパーバンタム級王者 WBO世界バンタム級王者 武居 由樹 × 元ボクシング世界三階級王者 大橋ジムトレーナー 八重樫 東
- 株式会社 サンミュージックプロダクション 代表取締役社長 岡 博之
- 元サッカー日本代表 / NHKサッカー解説者 福西 崇史
- スポーツクライミング選手 緒方 良行
- 元プロバレーボール選手 / 元プロビーチバレーボール選手 越川 優