巻頭企画天馬空を行く
「日本にサッカー文化を根付かせるため、
自分ができることをやっていきたい」
サッカー日本代表の一番の課題は方向性
同業者も一目置く、サッカーの本質を鋭く見抜く洞察力で、日本代表への提言を続けている福西氏。一部メディアから「史上最強」とも称されながら、2024年1月~2月に行われたAFCアジアカップではベスト8で敗退してしまった現在の日本代表について、同氏はどのような印象を持っているのだろうか。率直な意見を聞いてみた。
「プロスポーツは結果がすべてという世界ですから、アジアカップの結果が今の日本代表の現状を如実に表していると言えます。監督や選手はもちろん、私を含めたサッカー関係者も、まずはその現実をしっかりと受け止めなければなりません。そして私のような立場の人間は、メディアを通して、課題点や反省点、今後日本代表がどうしていくべきかなどを多くの人たちに伝える必要があります。アジアカップが始まる前、日本国内には『日本は優勝して当たり前』という雰囲気がありましたが、『いやいや、そんなに簡単ではないぞ』と私は言いたい(笑)。もちろん、日本代表に実力はあります。しかしアジアカップで優勝するのも、あるいはワールドカップに出場するのも決して簡単なことではないですし、また当然ながら、例えばアジアカップとワールドカップとでは求められる戦い方も違ってきます。そのような認識を踏まえたうえで議論をしなければなりませんし、サッカーに関するリテラシーが上がっていかないと、そもそも生産的な議論が成り立たないんです。そして私は、サッカーリテラシーが高い人を日本で増やしたい。今の日本代表の一番の課題は方向性だと考えています。海外のリーグなどでもまれてレベルアップした選手たちは、おのおの意見を持っており、それらを森保一監督がどう集約してチームの方向性を定めていくのか。それが最大のポイントではないでしょうか」
プロ志望のサッカー選手を増やすために
2022年に中村俊輔選手、2023年に小野伸二選手、そして2024年に遠藤保仁選手と、かつて福西氏が共にプレーした同世代のスター選手たちが次々に現役を引退した。日本のサッカー人口が年々減少傾向にあると言われる中、同氏は今後の日本サッカーの展望をどのように考えているのだろうか?
「まずJリーグに魅力があれば、またそのトップである日本代表が強くて魅力のあるチームであれば、日本でプロを目指すサッカー選手は増えるはずです。そしてJリーグに興味を持ってくれた人たちが、『このスタジアムはおもしろい』だとか『この地域のチームは素晴らしい』だとかいったふうに、関心の幅を広げていってくれるようサッカー関係者はさまざまな施策を講じていく必要があると思っています。中村選手や小野選手ら、かつて華々しく活躍した選手たちが引退する一方で、有望な選手たちも新たに出てきているので、今度はその若い彼らが責任感を持ってプレーや言動でファンを楽しませてくれるようになれば、日本のサッカーももっと盛り上がっていくのではないでしょうか」
種子島でスポーツイベントを開催
過去に弊誌の表紙を飾っていただいた元プロサッカー選手の巻誠一郎氏と小倉隆史氏は共に、巻頭インタビューの中でサッカーを通した地方創生を目標の1つに掲げていた。福西氏もまた発起人として、鹿児島県種子島で2022年からスポーツイベント「種子島BIG VISION」を開催している。このプロジェクトを始めた理由について話してもらった。
「私自身が愛媛県という地方の出身者ですし、『種子島BIG VISION』を立ち上げるにあたって地方創生という目的は念頭に置いていました。普段はプロサッカーとじかに触れ合うことのない地方在住の方々がサッカーをし、人との交流が生まれることにより環境が変わっていくというビジョンです。また、子どもの頃に地方でサッカーに打ち込んでいた人たちの中にはその後プロになったり日本代表になったりした選手が大勢いますから、目的の1つとして人材発掘もありました。種子島は私にとってそれまで知らなかった土地でしたし、ゆかりもありませんでしたが、大きな可能性を感じる場所だったんです。『種子島BIG VISION』は今後も続けていきたいプロジェクトであり、2024年も開催が決まっています。これをきっかけに、また違う地方でも同じような試みを行いたいと思っており、今はその実現のために動いているところです。『種子島BIG VISION』で生まれた可能性を日本全国に広げていきたいですね。その核となるのはもちろんサッカーですが、サッカーのみならず他競技のアスリートやミュージシャンの方ともコラボレートしています。また、私たちの試みにスポンサードしてくださる方々と地域との関わり合いも含め、皆が幸せになれるつながりを持てるように心がけながら、少しずつその輪を広げていきたいと思っています。嬉しいことに、種子島のサッカー人口は徐々に増えていっているんですよ」
日本にサッカー文化を根付かせたい
2016年11月に、日本サッカー協会(JFA)が公認する指導者の免許制度で最高位の指導者資格であるJFA公認S級コーチの資格を取得した福西氏は今後、Jリーグや日本代表の指導者を目指すのだろうか?インタビューの最後に、同氏が描くこの先の目標や挑戦してみたいことを聞いた。
「指導者の仕事に関しては、ぜひJリーグのチームでやってみたいですね。私は自分のことを必要としてくれるチームで仕事がしたいと思っていますが、とりわけ、実際にプレーしたことのあるジュビロ磐田、FC東京、東京ヴェルディ、あるいは郷土のチームである愛媛FCでできれば本望です。また、より大きな目標を言うと、日本にサッカー文化を根付かせる仕事をしたいと思っています。そのために何ができるのかを考えながら、自分がやれることをやっていきたいですね。『種子島BIG VISION』もその1つですし、そうした試みの中からスター選手が生まれれば、その選手のまねをしてまた新たなスターが生まれていくかもしれません。サッカー解説の仕事で言えば、私の解説を聞いてくださった人がサッカーに興味を持ってくれて、さらにはJリーグのサポーターにまでなってくれる――そういった広がりが生まれるきっかけをつくるような仕事をしていきたいと思っています」
(取材:2024年3月)
取材 / 文:徳永 隆宏
写真:竹内 洋平
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