一歩を踏み出したい人へ。挑戦する経営者の声を届けるメディア

Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

「私の場合、サッカーを通して
『深く考える力』が身に付いていきました」

 

ボランチは会社でいうと中間管理職

ポルトガル語で「かじ取り」を意味するボランチはいわばチームの心臓であり、福西氏は著書『こう観ればサッカーは0-0でも面白い』(出版社:(株)PHP研究所)の中で「ボランチは会社で例えるなら中間管理職」と書いている。長年ボランチでプレーしたことで得たこと、身についたことについて質問をした。

「ボランチの特徴をひと言で表すと、攻撃と守備の両方を担うポジションであるということです。攻撃の起点にもなれますし、守備においては防御の先頭に立つこともできます。やはりそういう意味でも、いろいろなことができるポジションだと思います。長年ボランチでプレーする中で、ディフェンダーの選手から後ろをどうにかしてほしいと要求されることは多々ありましたし、前方の選手を動かす必要もあれば、反対に自分が彼らに動かされることもありました。そのように、前後両方と必ず関係を持たなければいけないポジションがボランチなんです。そうした観点から言えば、会社の中ではやはり中間管理職にあたるのではないでしょうか。中間管理職の人間は、部下に指示を出さなければいけないし、同時に上司から指示を受けなくてもいけない。そのうえで複数の意見を集約する必要があります。もちろん、時代とともにサッカーのスタイルは変わってきているので、ボランチが果たす役割も更新されています。柱谷哲二さんや井原正巳さん、あるいは吉田麻也選手などサッカー日本代表の歴代キャプテンは後方の選手が大半ですが、個人的には中盤の選手がキャプテンを務めるのが良いと思っているんです」

格別な大会だったワールドカップ

1999年、2002年にジュビロ磐田でJリーグ年間優勝を経験した福西氏は、日本代表として2002年の日韓ワールドカップ、2006年のドイツワールドカップと、2度のワールドカップに出場した。同氏にとってのワールドカップの思い出についてうかがった。

「一番の思い出は、サッカーというスポーツにおける最高峰の大会に出場できたということです。その経験はやはり私にとっては財産となっていますし、子どもの頃は想像もしなかった『ワールドカップ出場』という可能性が、自分が成長するにしたがって次第に現実味を帯びていき、実現することができたというのは大きなことでしたね。しかしその一方で、実際に出場してみたら日本と世界との実力の差を痛感しました。これらの経験はすべて今の自分につながっていると感じています。言葉で表現するのはなかなか難しいのですが、いま振り返っても、やはりワールドカップというのは数多くある大会の中でも格別なものでしたね」

「個」の成長に伴い「組織」も成長する

2009年1月に現役を引退した後、福西氏は解説者として活躍しながら、サッカー教室や講演会、メディア出演などを行い、日本にサッカーを普及するための活動を続けている。講師として「組織の中で自分を生かす」というテーマについて講演したことがある同氏は、個性の強い選手が集まる日本代表や、「黄金時代」といわれたジュビロ磐田において、自身ではそれをどのように実践していたのだろうか?

「サッカー選手としてプロであり続けるためには、まず試合に出場し続けなければなりません。その目的を達成するためにも、自分の武器を磨いていく必要があるんです。私の場合はそれがある程度できたからこそ、現在の自分の立ち位置を確保し得ているのだと思います。その点では、会社で働く方たち一人ひとりも同じでしょうし、そうした『個』が集まることによって『組織』も成長していくはずです。また、個人として成長することで責任の大きな仕事を任されるようになり、それにつれて少しずつ出世を遂げていくわけですよね。自分の価値を高め続けていくことが大事だという意味では、私はサッカー選手も会社員も同じだと考えています」

サッカーを深掘りすることのおもしろさ

雑誌『週刊プレイボーイ』で連載中のコラム(「福西崇史 フカボリ・シンドローム」)のタイトルが端的に表しているように、また、冷静で的確なサッカー解説などからも、福西氏はサッカー関係者の中でとりわけ「深掘り」や「考える」ことが得意な人物という印象を受ける。これは元来の資質なのだろうか?それとも徐々に身に付いていったものなのだろうか?この点について自身はどのように考えているのかを尋ねてみると――

「それは、ボランチとしてプレーするうちに身に付いていったものだと思います。先述しましたように、現役時代は『常に考えながらプレーしなければならない』と思っていましたし、実際、考えることによってできたことも多々ありました。しかし他方では、『現役時代にやれたことはまだまだあったのではないか』という気持ちが今でもあるんです。だからこそ、サッカー解説者としても、あるいは指導者としても、今後どうすればよりレベルアップしていけるのだろうかと日々考え続けています。これはサッカーに限ったことではなく、皆さんも同じではないでしょうか。ただ、こと私自身に関して言えば、そのような資質は、やはりサッカーを通して身に付いていったものだと感じています。また、サッカーをやったことがない人であっても、サッカーを深掘りしていくおもしろさを知れば、『サッカーをやってみたい』と思うかもしれませんし、サッカーがより身近になって試合を見る醍醐味がわかるようになるのではないかと考えているんです。現代のサッカーはデータ分析が盛んになってきています。そんな状況の中で試合の流れを一気に変えるためには、緻密な人や深く考える人、良い意味でずる賢い人たちがチームに必要になってくる――時代とともに潮流が変化していくところもサッカーのおもしろさの1つだと私は思っています」

 

1 2 3