巻頭企画天馬空を行く
「必死の思いでつかんだチャンピオンベルト、
簡単には渡さない気持ちでしっかり倒します」
夢の力を信じてさらに先へ
武居氏は来たる2024年9月3日に、東京・有明アリーナで比嘉大吾氏と対戦することが決まった。再び井上尚弥氏と同日のカードで、ボクシングでは初めての防衛戦に臨むことになる。決戦を間近に控えた武居氏と八重樫氏の、今の率直な心境を尋ねてみた。
武居 客観的に見て、とてもおもしろそうなカードだと思います。僕が倒せるかもしれないし、逆に倒されるかもしれない――危険な一戦になることは間違いないですね。今は自分自身が一番わくわくしています。
八重樫 私は大吾とも一緒にトレーニングをしていた時期があるので、個人的にはあまりやりたくなかったのですが···こればかりは巡り合わせですから、今は受け入れて、しっかり倒せるように準備しています。よく見ていたぶん、想定しやすい部分は多いですし、2人でしっかり詰めていきながら整えるつもりです。良いカードであることは間違いないので、盛り上がりに恥じないような試合をお見せしたいですね。
武居 先日も、尚也さんと一緒に3日間の集中トレーニングをしましたし、この後も数回の強化合宿を控えています。相手は強いチャレンジャーですが、僕も必死の思いでつかんだチャンピオンベルトなので、簡単には渡さないという気持ちで、しっかり倒そうと思います。
対談中、どちらかがぐいぐいと話を引っ張るというわけでもなく、所々で相手の言葉にリアクションをしたり、反応を確かめるように顔を見合わせたりしていた武居氏と八重樫氏。昔かたぎの、上下関係が厳しい師弟とはだいぶ雰囲気が異なるが、お互いに相手の存在をどのように思っているのだろうか?
武居 僕にとって八重樫さんは本当に「師匠」ですね。わからないことは何でも教えてくれますし、こういうインタビューでも、僕以上に良い話をしてくれるじゃないですか(笑)。だから、ボクシングだけでなく、人生の師匠、という感じです。
八重樫 もう4年も一緒にいますから、取り立てて言うことはないですよ。生活の中に練習があって、絶対に顔を合わせるのだから、お互いにとって「当たり前」の存在です。あえて素っ気ない言い方をしておくと、いてもいなくても変わらない、ですね(笑)。
最後に、2人が大切にしている言葉とともに、これからボクシングの世界を志す人へ向けて、力強いメッセージを送ってもらった。
八重樫 私が一番大事にしている言葉は、「懸命に悔いなく」です。私は岩手県出身で、この言葉は東日本大震災時に被災した格闘技道場の代表からいただいたんですよ。たくさんの死を見る中で、それでも残された自分たちにはやらなければならないことがある、と。その「残された」という言葉がずっと心に響いているんです。私生活でも仕事でも――私たちにとってはボクシングが仕事なので、日々懸命に努力して、悔いなく競技人生を終えられれば良いと思います。私は今4人の指導に当たっていて、もちろん全員が世界チャンピオンになれれば理想ですが、もしそうならなくても、その選手がグローブを置いた時に「コンビを組めてよかった」と言えるような存在でありたいですね。そして、これから指導する選手たちとも、同じように接していきたいと思っています。
武居 僕が大切にしている言葉は「夢の力」――所属していたキックボクシングジムの名前でもありますね。僕は格闘スポーツと出合うまではやりたいこともなく、この先どうなるのか、未来がとても怖かったんです。でも、格闘スポーツを始めて、世界王者になるという「夢」を持てたことで、一生懸命に生きることができました。これからは、その夢の力を広げて、K-1とボクシングの両方で世界王者になれるのだという道を、子どもたちに示していければと思います。そうやって、武居由樹という人間の価値を高めていくことが、僕の新しい「夢」です!
(取材:2024年7月)
取材 / 文:鴨志田 玲緒
写真:竹内 洋平
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