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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

「私の音楽を聞いてくれる方々の人生に
種をまき、行動をするきっかけを訴えたい」

 

ヒップホップの魅力は「リアル」なこと

1973年にアメリカ・ニューヨーク州ブロンクス区で、困窮した黒人たちが集まるコミュニティから生まれたヒップホップは、2023年に誕生50周年を迎え、いまやアメリカの音楽界ではメインストリームのジャンルとなっている。AK-69氏にとってヒップホップとはどういった存在なのだろうか。また、ヒップホップの魅力についてどのように考えているのだろうか。

「私にとってヒップホップは完全にライフスタイルになっているので、もはや自分がヒップホップをやっているという感覚さえありません。ファッションでもいろいろな面でヒップホップが世界の中心になっていますし、改めて素晴らしい文化だと思います。最初はブロンクス区で生まれた黒人の音楽ではありましたが、いまや海を越えて日本語のラップや韓国語のラップ、中国語のラップなど、あまたの国でヒップホップが根付いているので、かつてロックがそうであったように、ヒップホップも世界中の人たちの表現方法として定着したのだと感じますね。これはロックについても言えるかもしれませんが、ヒップホップはすごく『リアル』な音楽だと思います。フィクションではなく、表現しているのはすべてアーティストごとの『自分の物語』なんです。だから、うそがない。実際、メルヘンやファンタジーを歌っている有名ラッパーは思い浮かびません。そこがヒップホップの最大の魅力だと私は考えています」

皆がしない選択をあえてするという美学

ストリートからメインストリームへと這い上がってきたAK-69氏は、ニューヨークへの武者修行、コロナ禍における名古屋城・鈴鹿サーキットでの無観客ライブ、ブランドや事務所の設立など、「あえて険しい道を行く」挑戦する姿勢が印象的なヒップホップアーティストだ。そんな同氏を挑戦へと駆り立てる原動力とは何なのだろうか?

「やっぱりカッコ良さですかね。『カッコ良さ』とひと言で言っても、それは簡単につくれるものではないんです。口だけで威勢のいいことを言っても行動が伴わなければカッコ良くないですし、ブランドもので自分を着飾ったところでそれはカッコ良さではありません。じゃあイケメンに生まれれば、あるいは整形すればカッコいいのかと言うと、そうでもない。『格好が付く』というのは、己が言ったことを実際にやってのけることであり、それによって価値が付くことだというのが私の持論です。誰もができることをやったとしても価値は付きません。皆が得難いことを手にし、成し難いことを達成するから、そこに価値が生まれるんです。だからこそ、皆がしない選択をあえてする―それが自分のモットーですね。もちろん私にも欠点は多々ありますが、このスタンスだけは絶対に崩したくないと考えています。父が他界した時、あるいは知人が亡くなった時にも感じましたが、人生はいつどこで終わるかわかりません。正直、人生というのは死ぬまでの暇つぶしにすぎないという考えが頭をよぎる時もあります。ただ、子どもができてよりいっそう感じるようになったのは、自分の魂のようなものを子どもに残したいということです。私が死んだ時、自分のことを一番近くで見ていた存在に『ダディは素晴らしかった』と言われたいですね」

自分の人生に覚悟を持って生きて欲しい

音楽プロデューサーのファレル・ウィリアムスがアメリカのラッパー、ケンドリック・ラマ―を「21世紀のボブ・ディラン」と称したように、ヒップホップには1960年代のフォークソングなどと同様、レベルミュージックやプロテストソングの側面がある。逆境を乗り越え常に挑戦を続けてきたAK-69氏に、長きにわたって低迷している日本経済、海外で起きている戦争や地球温暖化をはじめとする環境問題など混迷する時代を生きる人々に向けたメッセージをお願いした。

「『COMPANY TANK』さんの読者の大半は日本人だと思いますが、私は皆さんに日本人としての意志を持って欲しいんです。政治に対する不安、政府への不満などがいろいろとあるはずなのに、その一方で選挙の投票率は低い。自分たちが国や子どもたちのために何ができるのかをぜひ考えてもらいたいですね。一般のサラリーマンの方であろうとそうした考えを持ち、そのうえで自分の人生をどうしていくのか、自分の背中を誰に見せるのかということを決める。まずは皆がそのような覚悟を持っておかないと、政府が発信していることを全部うのみにして、ただ流されて生きて死んでいくだけの人生になってしまいます。私は、日本をそういう国にしたくないんです。海外の状況を私たちの手で変えていくのは難しいでしょうが、意識的に自分たちの意志と覚悟を持てるようになれば、日本は良い方向に変わっていくのではないでしょうか。もし私が政治家になったとしても、日本とアメリカの関係を根幹から変えるのは困難だと思いますが、1人の音楽アーティストとして影響力を持ち、有志を育てることはできると考えています。私がやりたいのは、自分の音楽を聞いてくれる皆さんの人生に素晴らしい種をまいたり、行動をするきっかけを訴えかけたりすることなんです。私のメッセージに少しでも反応してもらえるのであれば、日本人としての強さを取り戻し、自分の人生に覚悟を持って生きてくれることを望みます」

メッセージを伝える究極の形を構築する

AK-69氏は現在46歳で、アメリカではカニエ・ウェストと同世代。上の世代の日本人ラッパーは少数で、20代のちゃんみな氏や¥ellow Bucks氏、30代のR-指定氏やZORN氏など後輩ラッパーが多い中、この先ラッパーとしてはあまり先例がない領域に入っていくことになる。今年の6月9日に初の横浜アリーナ単独公演を控える同氏がこの先やってみたいことを、インタビューの最後にうかがった。

「今後も音楽アーティストとして己の道を進み、仮にその活動を終えたとしても、自分のメッセージを形にしていく方法はすでに決まっています。ただ、それについて今この場で詳しく説明することはできません。AK-69としての知名度が全国区になったのは2007年に『Ding Ding Dong〜心の鐘〜』をリリースしてからでした。それ以降、常に音楽シーンの最前線にいることができた理由を自分なりに分析してみると、それはメッセージ性にあると考えているんです。トップアスリートの方たちが私の曲を支持してくださっているのも、やはり曲に込めたメッセージが一番の要因だと思います。現在は、そのメッセージを人々に伝えるための『究極の形』を構築している最中です。音楽アーティストとしての活動はもちろんですが、『Flying B Entertainment』に関しても、AK-69のプロジェクトが終わった途端に解散するような会社にしたくありません。自分の活動や会社の事業を息子に継承するというビジョンは想像できませんが、私が死ぬ時に、息子に引き継げるものは何なのか――その答えが出たので、それを形にしていきます」

(取材:2024年11月)
取材 / 文:徳永 隆宏
写真:竹内洋平

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