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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

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店舗づくりへの意識

現在は国内5店舗、海外1店舗のラーメン店を運営しているが、店舗展開にも独自のこだわりがある。

「スタッフが育ったら、出店という形ですぐにチャンスを与えます。でもその代わり、ダメだったら半年で畳みます。いくらお金をかけて店をつくったとしても、僕の考えが間違っていたと感じたら、すぐに畳んでしまうんですよ。実は去年も2店舗を閉店したのですが、これも全て次のステップアップのため。もう一度、閉店した店で働いていたスタッフに力を付けてもらい、新たな展開に繋げていくために決断しました」

そう語るデビット伊東さんは今後のラーメン店運営について、どんなビジョンを持っているのだろう。

「創業から15周年を迎え、原点回帰という意味でラーメンメニューを刷新します。そしてもう1つ、今は国家レベルで“地方再生”が叫ばれていますが、そのなかで僕たちにできることは何かと考えたとき、それは現地採用・技術提携だと思っています。具体的には地方に出店する際、ウチのスタッフを送り込むのではなく現地で人を募集し、食材は各地域の名産品をメインに使っていくというような、新ブランドのラーメン店の出店ですね。その店舗では既存の“でびっとラーメン”と“現地食材のラーメン”をぶつけちゃう予定なんで、スタッフは大変かもしれませんが、お客様からすると楽しいと思いますよ。そしてこのコンセプトでの取り組みが地域活性に繋がっていけばいいなと。
 僕は地方に行くと、老夫婦がやっている昔ながらのラーメン店にどうしても入ってしまうんです。最近では変わり種のラーメンを出すような店舗も増えていますが、僕はどちらかというと地に足を付けた商売のほうが好きなので、愚直に王道のラーメンをつくっていきたいですよね。そもそもラーメンは大衆のものであり、お客様の目線で皆さんと喜びを分かち合うというのが僕の考え。15年経ってたくさんのスタッフが育ってきた今、ようやくそのイメージを具現化できるところまで辿り着いたと感じています。
 だからといって懐古主義というわけでもなく、ITなどのツールも積極的に活用しながらもっとその先、ラーメン店という概念をとりはらった新たな店舗のスタイルも模索しています。ラーメンもパスタもそばも麺という意味では同じなのだからそのくくりで出店しても面白いでしょうし、ラーメン店とカフェが融合したっていい。何かもっと自由な発想で、多くの人が楽しめるような店舗づくりにチャレンジしたいですね」

大きなわらじを履きこなすために

有名人やタレントが出店する飲食店は話題性だけが先行し、ブームが去ったら閉店というパターンが一般的だ。しかしその風潮に逆行するようにデビット伊東さんのラーメン店は着実に店舗数を伸ばし、自らは芸能界に復帰し役者としても活躍している。

「たまに『役者と実業の両方で成功してすごいね』と言われることもありますけど、一度も成功というのを感じたことはないですね。というか正直、気にしたことがない。経営に関しては創業2年目くらいでブームが去り、自分の貯金を切り崩しながらスタッフに給料を支払っていた時期もありました。その後も多店舗展開をして多くのスタッフを抱えるようになったとき、再び経営の壁にぶち当たって・・・どうしたらいいのか分からず様々な経営学の本を読んだのですが、僕には難しすぎて、内容が漠然としていて、何か書いてあることが遠回りすぎて全く分からなかった。それでもう一度、現場を隅々まで見渡したとき、従業員に対するケアが不十分だったことに気付いたんです。そこから僕は何より現場のスタッフが大事だというのを学ぶことになるのですが、経営って本当に不思議で、分からないことは未だにたくさんあります。だから現時点で成功とか失敗とか、そういうことを考えている場合でもないというか・・・。
 よく“二足のわらじ”なんて言われたりもしますけど、僕の感覚としては一足のわらじが大きくなっただけ。でもまだ僕の足のサイズがそのわらじよりも小さいから、ただただ一生懸命にやっているにすぎないんです。両方とも本気ですから、例えば地方テレビ局主催の飲食系のイベントに出店することになったら、当然ですが僕は必ず現場に向かいます。舞台であれラーメン店であれイベントであれ、目の前のお客様を喜ばせる仕事という意味では一緒ですからね。そこに名前だけ貸しているタレントショップがあったとしたら、僕、直に本人に電話しますもん。『お前らちゃんと現場につくりに来い』って(笑)」

芸能活動においては最近では俳優としての仕事が目立つが、今後のタレント業についてはどのように考えているのか、ラーメン店経営の視点も交えて語ってくれた。

「ラーメン店の経営と違ってタレント業は、テレビ局などの主催者側からお呼びが掛からないかぎり仕事がないという意味での厳しさはあります。僕たちがいくら頑張っても、ニーズがなければ出られないんです(笑)。今年で50歳という区切りでもう一度お笑いをやってみたいという思いもありますし、バラエティでもなんでも、オファーがあればいくらでも応えたいという気持ちでいますよ。
 ちなみに役者の仕事は数週間?数ヶ月にわたって役づくりや稽古をしてテレビや舞台に臨む一方、芸人の仕事は現場の一瞬一瞬が全てなので、求められる能力は全く異なります。それが難しさであり面白さでもあるのですが、いずれにせよチャンスを頂けるよう、そのために何ができるのかってことは常に考える部分ですね。
 それと芸能界とラーメン店のもう1つの違いは、芸能界の仕事は1人でもできるけど、ラーメン店は1人では運営できないということ。別の言い方をすると芸能界で得たスキルを芸能人に教えることはできませんが、ラーメン店のほうはノウハウを共有することができるのです。だから礼節の厳しさなど芸能界の良い部分をスタッフに伝え、悪い部分は見なかったことにしています(笑)。時々思うんですよ、互いの仕事から良い相乗効果が生まれるのは間違いないので、芸能界の方々はこの好循環システムをみんなもっとやればいいのにって。
 タレントと経営者の比重としては、ちょうど半々くらいのイメージでいます。“喜んでもらうためにサービスを提供する”という意味では共通していますし、お客様目線の大切さなど経営から学ぶこともたくさんあったので、もしこの経験がなければ今の役者としての仕事はなかったかもしれません。それにラーメン屋のオヤジ役を頂けたなら完璧にこなせますよ(笑)。
 役者の仕事で煮詰まったときは、厨房に入っていることが多いです。『なんであの芝居がうまくできないんだろう?』と思案しながら麺を茹でたり・・・。ただし悪役をやっているときは店舗に入らないほうがいいと思いますね、スタッフに対して理不尽にブチ切れてしまうかもしれないので(笑)」

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