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コラム

Special Voice 株式会社 鶴 代表取締役 田中 大貴

株式会社 鶴
代表取締役
田中 大貴

 

コロナ禍や低迷する日本経済、戦争や環境問題など、混迷する現代社会において、各分野で挑戦を続け、わが道を歩んでいる方々の言葉を通して、一歩を踏み出したい読者の背中を後押しする企画。第9回は、建設業界の透明化・健全化を目指して誠実な施工を追求する田中大貴氏に、人との縁をつなぐ大切さや、関わるすべての人に寄り添う哲学、建設業界のより良い発展に向けた取り組みなどを語ってもらった。

 
――2025年11月に(株)鶴を設立された田中社長。「鶴」という社名には、どのような思いが込められているのですか?
 
前職の不動産会社から修繕工事一式をお任せいただいたり、同業の業者さんからお仕事をいただいたりと、これまでたくさんの方々の支えがありました。だからこそ、自分が元請けの立場になった際には、今までお世話になった方々へ恩返しがしたいという思いがあるんです。ご依頼いただいたご縁だけでなく、共に働く職人さんや家族など、関わるすべての人とのご縁や恩を大切にしたいという気持ちを社名に込めています。また、鶴は生涯つがいで過ごすと言われています。そのため、当社もそうしたご縁をつなぎ、末永くあたたかい関係性を築いていける存在でありたいという願いも込めているんです。
 
――人と人とのご縁を何より大事にされてきたのですね。
 
はい。私が最も重視しているのが、関わる方々との信頼関係です。おかげさまで、足場・外装・内装・不動産など、建物に関わるさまざまな分野の専門家と連携し、「各分野のプロフェッショナルが集まるチーム」をつくることができています。前提として、建設業界では、お客様から見た時にブラックボックスとなっている点が多くあるんです。例えば、大手さんに依頼したとしても、実際に施工するのは下請けの別会社になり、費用が高額になる場合も珍しくありません。その現状を踏まえ、お客様が職人とじかにやり取りができる環境を整えてサービス内容の透明化を図り、ご要望に合わせた丁寧な施工をご提供しています。
 
――職人の方々と接する際に大切にしている点についても、ぜひ教えてください。
 
私は、ご依頼された工事は自分の目で見届けたいという思いから、今でも職人として現場に出ています。一緒に働く職人の方々には、私と同じ熱量や思いを持って取り組んでほしいと、常々伝えているんです。困ったことがあれば助けたいですし、逆に私が助けてもらうことも当然ありますから、お互いに切磋琢磨し合いながら、志を共有して現場に向き合っています。また、前述しましたように、建設業界には多重下請け構造が根付いていて、職人の方々が適正な対価を受け取れていない現状もあります。しかし、現場が滞りなく進むのは、共に働いてくれる職人の方々がいるからこそです。皆さんに幸せになってもらうためにも、今後は高齢になったなどの事情から職人ができなくなった方のセカンドキャリアとなるポジションをつくりたいと考えています。
 
――職人のセカンドキャリアとして、どのような仕事を考えていますか?
 
一つは、現場をチェックしてもらう仕事です。やはり、豊富な経験を積んできた職人の方だからこそ気付くことや理解できることが多々あると思います。そのため、そうした方々の現場チェックにより、熟練の職人目線による改善点を見つけてもらうようなポジションをつくりたいですね。もう一つは、外国人技能実習生の方が実際に現場に出る前の段階で、指導をしてもらう仕事です。過去には、技術面が疎かだったり、うまくコミュニケーションが取れなかったりしてきつく叱られている実習生の方を見て、とても心苦しい思いをしたことがありました。それに、技術が未熟な状態で現場に出ると、大きなケガをしてしまう場合もあります。そうした問題を解決するためにも、職人を引退した経験豊富な方を講師として、きちんとした教育機関のような体制をつくりたいと考えているんです。そして将来は、「株式会社鶴で学んだ職人なら安心だ」と言っていただけるような付加価値を生み出せたらと思っています。
 
――お客さんに対しては、どのような取り組みをしていきたいですか?
 
単なる工事会社ではなく、建物の価値を守るパートナーのような存在になりたいと感じています。特に考えているのは、不動産オーナー様へ適切なメンテナンス提案や建物診断を行い、長く資産価値を守ることのできるサービスの追求です。「こうすれば賃料が上げられます」「これを取り入れると、建物の印象が良くなります」といった具体的なご提案を常に心がけていきたいですね。不動産オーナー様に限らず、一つの出口として、建物の売却や相続に関する部分までフォローさせていただける関係性をお客様と築いていくことが、私の理想です。
 
――お話から、ご自身の理念を体現していらっしゃることが伝わってきます。
 
ありがとうございます。最終的には、「職人が正当に評価される」「お客様が安心して工事を頼める」「業界全体が透明化される」。この3点の実現を目指したいです。現状の建設業界は、業者が安く自社を売り出し、結果的に費用が足りず、質の悪い工事をせざるを得なくなるという負の連鎖に陥ってしまっています。最悪の場合はそれで業者が潰れてしまい、地域に残った一つの業者が相場より高い単価でお客様に負担を強いる構造が根付いてしまうんです。その悪循環をなくすためにも、自らが誠実な施工を追求し続け、その思いを着実に広げていきたいですね。
 
――読者の方々へ、田中社長だからこそ伝えられるメッセージをお願いします。
 
会社を経営したり、責任感のある立場に立ったりすることは、本当に孤独で苦しいものです。しかし、そうした状況でも誠実さを頼りに、諦めず進んでいけば、きっと見てくれている人はいると信じています。最後には過去の頑張りが自分に返ってくる―その考えを大事にしていただけたらと思います。
 

田中 大貴
 
高校在学中にアルバイトから建設業に携わる。卒業後は海外留学を経験し、帰国してからは不動産会社に就職。やがて建設業が自分の肌に合っていることを再確認し、足場工事の職人へ転身する。経験を積みながら実績を重ね、「大志工業」として独立。その後、前職の縁から修繕工事一式に対応したことを機に総合リフォーム業へと裾野を広げ、(株)鶴を設立した。これまでお世話になった人々に恩返しをするとともに、顧客や共に働く仲間と末永く信頼関係を築いていく姿勢を指針に、足場から塗装、防水、内装まで、住まいに関する工事全般に対応。業界変革のため、さまざまな挑戦を続けている。宅地建物取引士、一級施工管理技士補の資格を取得。

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