コラム

――こちらの建物は1928年に建てられ、2016年まで快哉湯という銭湯として長年地域の人々に親しまれていたとうかがっています。現在は、浴室だったスペースが建築会社のオフィスとして、脱衣所だったスペースがカフェとして活用されています。まずは、この形に至るまでの経緯を教えてください。

▲ 脱衣所の男女の仕切りはそのまま残されている。奥は建築会社のオフィスとして利用され、古いものと新しいものが違和感なく共存している
マリ 快哉湯の再生プロジェクトは、銭湯時代のオーナーさんの「この建物を未来に残したい」という強い思いからスタートしました。2019年に建築会社のオフィスとして活用されるようになり、その後、銭湯だった時代と同じように、誰もが日常の中で気軽に立ち寄れる場所にしたいという思いから、脱衣所をカフェとして再活用することになりました。レボン快哉湯としてオープンしたのは2020年7月です。今を生きる人たちがここで過ごす時間を積み重ねていくことで、かつての記憶や思い出が未来へとつながっていく、そうした“記憶をつなぐカフェ”でありたいと考えています。
――銭湯として人々が集っていた場所の役割を、形を変えて受け継いでいらっしゃるのですね。建物についても、銭湯時代の姿がほぼそのまま残っていることに驚きました。

▲ 番台に座って写真撮影をすることもできる。銭湯好きの来店者に人気のスポット
マリ リノベーションに直接携わったのは建築会社の方々ですが、できるだけ姿を変えないという点を大切にされたと聞いています。耐震工事も外側からではなく内側から行うことで、外観の印象を変えないようにしたそうです。実際、なくなったものを数えたほうが早いほどで、男女を仕切る浴室の壁と外の塀が取り払われた以外はほぼ当時のまま残っています。
――そのままの姿が残っているからこそ、空間の力を強く感じますね。マリさんご自身が気に入っているポイントはどこですか?
マリ 天井の高さですね。ここまで天井が高くて開放感のある空間は、カフェとしてはなかなか珍しいと思います。入った瞬間に感じる広がりや空気感そのものが、この場所の魅力だと感じています。銭湯時代の名前が入った時計もそのまま残っていて、時間が止まっているような感覚も、この場所ならではの魅力です。
――現在はどのようなお客さんが来られていますか?

▲ 浴室の壁絵もそのまま保存されている。奥のオフィススペースも、打ち合わせ時などを除き見学が可能
マリ 地元の方や、かつて快哉湯に通われていた方、銭湯好きの方、そして銭湯に初めて触れる方、海外からの観光客まで、本当に幅広い方が訪れます。SNSやGoogleマップを見て来られる方も多く、東京観光の一環として立ち寄ってくださる方も多いですね。過ごし方もさまざまで、お一人でゆっくり過ごす方もいれば、会話を楽しむ方、建物をじっくりご覧になる方もいらっしゃいます。海外の方には番台の役割をご説明することもありますね。
――歴史ある場所が新たな体験を生み出し続けているのが素敵ですね。カフェとしての魅力についても教えてください。
マリ 看板メニューは、アイスクリームと自家焙煎コーヒーのマリアージュプレートです。単体ではなく、組み合わせることで完成する味わいを大切にしています。例えば、異なる要素同士をかけ合わせることで新しい味を生み出したり、ベリーのような酸味があるコーヒーとブルーベリーのアイスクリームを合わせる“近いもの同士”の組み合わせだったり。クリーミーなアイスに酸味のあるコーヒーを合わせることで、より深みが感じられるような組み合わせもあります。果物も小田原の農園から直送で仕入れており、季節ごとの味わいも大切にしています。
――空間もメニューも、それぞれのかけ合わせが新しい体験を生んでいるんですね。イベントも開催されているとうかがいました。

▲ 快哉湯の名前が入った時計が空間を見守っている。止まったままの針が、この場所の記憶に思いを馳せさせる[写真左]、焙煎機も空間によくなじんでいる[写真右]
マリ イベントは基本的に、こちらから企画するというより、この場所に可能性を感じてくださった方が持ち込んでくださることが多いです。クラシックコンサートは、浴室の音の響きの良さに着目していただいたことがきっかけですし、「カツベンのゆ」も、この空間で昔の映画を上映したら面白いのではないか、という主催者の方の発想から始まりました。
――この空間だからこそ生まれている取り組みですね。
マリ そうですね。私はこの場所が使われ続けることが大切だと思っています。単に保存するのではなく、日々の営業やイベントを通して人が集い、それぞれの時間を過ごしている。その中で新しい思い出が生まれていくことが、“記憶をつなぐ”ということなのだと思います。お客様から「この場所を残してくれてよかった」と言っていただけることもあり、その言葉に触れると、この場所の存在意義をあらためて感じます。
――最後に、今後の展望についてお聞かせください。
マリ 2022年から運営会社の社員として当店のマネージャーを務めてきましたが、2026年4月に店舗譲渡を受ける形で独立しました。今後は、より一層この建物を大切にしながら、長く続いていく場所にしていきたいと考えています。銭湯時代を知る方が再訪された際に、「ここが残っていてよかった」と思っていただけるように、変化を重ねながらも、愛され続ける場所でありたいですね。
銭湯時代に使用されていた注意書きの看板もそのまま残されている。建築会社のオフィスとして活用されているスペースには浴槽も残り、かつての面影を色濃くとどめている。お湯の流れる音や番台とお客のやり取りが聞こえてきそうな空間そのものが、レボン快哉湯の大きな魅力だ。 レボン快哉湯・店長マリ 2022年よりレボン快哉湯のマネージャー兼ロースターを担当。2026年4月に(株)べステイトより店舗譲渡を受け独立。歴史ある銭湯空間を生かし、自家焙煎コーヒーとスイーツのペアリングを軸に、誰もが心地よく過ごせるカフェを目指す。 レボン快哉湯 【所在地】 〒110-0004 東京都台東区下谷2-17-11 【営業時間】土日月:10:00~18:00/火木金12:00~18:00 【定休日】水曜日 【URL】 https://www.rebon.jp/ |
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レボン快哉湯・店長