コラム

――すみだ水族館様は「いきものたちに会いに行く、公園みたいな水族館」をテーマにしていらっしゃいます。このテーマには、どのような思いが込められているのでしょうか?

▲ 50羽以上のマゼランペンギンが見られる屋内開放型プール。飼育スタッフが一羽一羽の名前を呼びながら魚をあげるゴハンタイムは来館者から人気を集めている
大山 水族館というと順路が決められている施設が多いと思います。でも当館では、あえて順路を設けていません。館内には椅子を多く配置し、導入エリアを抜けると広場のように開けた空間が大きく広がっています。そこでは、立つ場所によっては、小笠原大水槽、ペンギン、サンゴ礁、クラゲ、金魚を同時に視界におさめることができるんです。こうした構造の水族館は、世界的に見てもあまり多くありません。公園は特別な目的がなくても行ける場所ですよね。運動をする人もいれば、ベンチでぼんやり過ごす人もいる。すみだ水族館も、来館者の方それぞれが自由に思い思いの時間を過ごせる場所でありたいと考えています。
――「近づけば、もっと好きになる」というコンセプトも掲げられていますね。
大山 はい。当館では、いきものをできるだけ近くに感じられる展示を意識しています。ペンギンやクラゲはアクリルを隔てずに直接見られますし、上から観察することもできます。そうした展示の工夫は、すみだ水族館ならではだと思います。
――実際に、いきものとの距離がとても近く感じられました。特にペンギンはすぐ近くにいて、同じ空間を共有している感覚がありました。

▲ 翼についたカラーバンドの色でペンギンが識別できるようになっている。ペンギンの個性に着目できる情報発信もすみだ水族館の特徴だ
大山 そうですね。タイミングが合えばクラゲやペンギンにゴハンをあげている様子をご覧いただくこともできます。また当館では、飼育スタッフが日々の観察をもとに、ペンギン同士がどのような関係にあるのかを図で示した「すみだペンギン相関図」を公開しているんです。親子や兄弟、夫婦といったつながりに加え、それぞれの性格や恋愛関係なども紹介しており、そうした背景を知ったうえで水槽を眺めると一羽一羽への親しみが深まると思います。さらに、いきもののゴハンをつくる様子が見られる「キッチン」や、クラゲの飼育・繁殖作業を行う「ラボ」など、一般的な水族館ではバックヤードで行う作業も、あえて公開しているんです。いきものと向き合う現場そのものを来館者の方に感じていただける点も、当館の特徴の1つです。
――癒やされるだけでなく、知的好奇心も刺激される空間ですね。平日は20時まで開館され、フリーWi-Fiも整備されています。ビジネスパーソンのライフスタイルにも寄り添った運営が印象的ですが、どのように過ごされている方が多いのでしょうか?

▲ チンアナゴは、すみだ水族館の中でも特に人気の高いいきもの[写真左上]、「ラボ」には飼育スタッフが常駐している[写真右上]、カフェ横の「アクアアカデミー」[写真左下]、ペンギン水槽の横にもテーブルが設置されており夕方以降は作業が可能だ[写真右下]
大山 カフェの横にある「アクアアカデミー」というエリアではワークショップを開催していますが、終了後の夕方からはそのスペースを開放しています。明るく、デスクや仕切りがあるので、夕方になるとパソコンを開いて作業されている方をよく見かけますね。すみだ水族館は公園のように気軽に来られる一方で、非日常の風景が広がる場所でもあります。幻想的で落ち着いた空間や、自分とはまったく異なる存在であるいきものたちを前にすると、自ずと視点が切り替わるのではないでしょうか。水槽をぼんやり眺めながら考え事をして、ひらめいたら下のエリアでPCに向かう。そんな往復ができるのも当館ならではの魅力だと思っています。ビールなどのアルコールも販売していますので、お仕事帰りに立ち寄り、お酒を飲みながら水槽を眺めるなど、さまざまな形で豊かな時間を過ごしていただけたら嬉しいですね。
――まさに、日常の延長線上にある水族館だと感じました。すみだ水族館を運営するうえで、大山館長が大切にされていることを教えてください。

▲ 「ビッグシャーレ」と呼ばれる円盤型の水槽が設置されたクラゲエリアでは、クラゲを上から直接観察することができる
大山 「好き」という気持ちを通して、地球環境のことを考える。その入口になれたらと思っています。例えば、ここで“推し”のペンギンができたら、そのふるさとはどこなのか、そこで今どんなことが起きているのかと、自然と関心が広がりますよね。そのためにも、お客様には純粋に楽しんでいただきたいですし、同時にスタッフにも、まずは自分たち自身が楽しんでほしいと伝えています。いきものたちを見ながらスタッフ同士で会話が弾んだり、それぞれが「このいきものの、ここが好き」と熱く語れたりするような、“好き”のエネルギーがなければ、その魅力は人には伝わりません。スタッフが楽しみ、その思いがお客様にも伝わっていく。そんな良い循環が生まれる場所でありたいですね。
――それでは最後に、今後の展望をお聞かせください。
大山 すみだ水族館らしさはそのままに、最新のテクノロジーも取り入れながら、いきものが過ごしやすく、お客様にとっても見やすい展示を両立させる「正統進化」を目指していきます。また2025年からは、アルゼンチンの研究者とマゼランペンギンの共同研究を行っており、スタッフを現地に派遣しました。ペンギンのふるさとで今、何が起きているのか。いきものを取り巻く環境についても、より力を入れて伝えていきたいと考えています。入口はやさしく、気軽に楽しめる。でも、掘り下げていくと、世界ともつながった深い情報にも触れられる。そんな奥行きのある都市型水族館を目指していきたいですね。
写真:坂本 隼
画像提供:すみだ水族館
大山館長が教えてくれたおすすめの観察ポイントが、サンゴ礁エリアで見られる「テッポウエビとハゼの共生関係」だ。テッポウエビはハサミを使って砂利を運び出し、巣となるトンネルをつくる。一方、ハゼはその入り口で見張り役を務める。トンネルの位置や形は日々変化しているのだそうだ。定期的に足を運び、そうした変化を観察するのも楽しみ方の1つだ。 すみだ水族館・館長大山 卓司 東海大学海洋学部卒業後、東海大学海洋科学博物館にて飼育展示や生物の採集・収集・研究等に従事。その後、カナダのバンクーバー水族館に採用され、飼育展示および研究を行う中で、カナダ太平洋岸各地からアメリカ合衆国、またカナダの北極圏海域での調査・採集にも携わる。現在は、姉妹水族館である「すみだ水族館」と「京都水族館」の館長を兼務。 すみだ水族館 【所在地】 〒131-0045 東京都墨田区押上1-1-2 東京スカイツリータウン・ソラマチ 5F・6F 【営業時間】平日:10:00-20:00/土日祝:9:00-21:00 【URL】 https://www.sumida-aquarium.com/ |
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すみだ水族館・館長