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コラム

リポーター・圖師凜の宮崎ガイド

イエバエを使い、家畜排出物や生ごみなどを有機肥料や飼料に100%リサイクルする循環システムを構築している(株)ムスカ。MRT宮崎放送のリポーター・圖師凜さんが、同社の代表取締役会長を務める串間氏の事業に懸ける思いや、壮大なビジョンについて伺いました。
 

株式会社 ムスカ 代表取締役会長
串間 充崇(くしま・みつたか)
 
宮崎県宮崎市出身。学業修了後、中部電力を経て、ロシアの特殊な技術案件や商品開発を手掛ける会社に勤める。その後、イエバエ事業展開のため、2016年12月に(株)ムスカを設立。イエバエを活用した上質な肥料・飼料をつくり、持続的社会の実現に挑戦している。

*(株)ムスカ ホームページ
https://musca.info/

MRT宮崎放送 リポーター
圖師 凜(ずし・りん)
 
宮崎県日南市に生まれ、その後は宮崎市や延岡市で暮らす。大学卒業後は病院に事務職として勤務。仕事の傍らで、観光レディである「日南サンフレッシュレディ」として活動し、2016年4月からはMRT宮崎放送の朝の情報テレビ番組「モーニングてらす!」のリポーターに就任した。趣味は学生時代から打ち込む卓球で、現在も全国大会などに出場する。
 
*MRT宮崎放送・モーニングてらす!
http://mrt.jp/television/mtera/

 
圖師 ハエを活用した画期的なバイオマスリサイクルシステムを手掛けられているとのことですが、なぜこのような取り組みを始められたのでしょうか?

串間 現在、全世界の人口はますます増加の一途をたどり、2055年には100億人に達すると予想されています。しかし、生産物に対して大量の肥料・飼料、穀物を使う現状の畜産方法では、急激に膨れ上がる需要に供給スピードが追いつかなくなってしまう。実際、「タンパク質危機」と呼ばれるこの問題は、2025年から2030年にかけて起こりうることなんです。こうした危機的状況を脱するべく、当社を立ち上げました。

圖師 具体的には、どういったシステムなのですか?

串間 イエバエを活用して有機廃棄物からタンパク質と有機肥料をつくる100%バイオマスリサイクルシステムを構築した企業です。仕組みとしては、まず畜産の排泄物や生ごみのような有機廃棄物にイエバエの卵をまきます。幼虫は放っておくだけで有機廃棄物を分解し、1週間ほどで有機肥料をつくってくれるんです。そして、ごみを食べて成長した幼虫は、サナギ化するために本能に従ってトレイから出ようとします。これを回収し、動物性タンパク質の飼料に加工していくわけです。

圖師 幼虫と、その排泄物、それぞれが飼料と肥料に変わるわけですね。イエバエを使うところが重要なポイントとのことですが、従来の方法と比べて、どういった利点があるのかが気になります。

串間 一般的に、畜産排泄物のほとんどは微生物による発酵 堆肥化がされており、それには早くて 2~3ヶ月、完熟堆肥にするには1~3 年ほどの時間が必要です。また、発酵のプロセスでは温室効果ガスが発生し、完成した堆肥には硝酸態窒素という物質が含まれており、多量の場合は土壌や水の汚染につながります。しかし、これをイエバエに置き換えると、わずか1週間ほどで有機肥料をつくってくれるだけでなく、温室効果ガスを99%削減。加えて硝酸態窒素を幼虫が吸収するため汚染の心配もなく、従来に比べて圧倒的優位な処理方法を実現できるわけです。

圖師 イエバエ自体にも特長があるのですか?

串間 ええ。もともと世代交代が早く、昆虫の中では飼育が比較的容易なイエバエですが、選別交配を重ねることによって、より能力の高い種になるように選別交配を続けてきました。 その期間はおよそ45年、1100世代にわたる壮大なもの。その結果、当社が保有するサラブレット化したイエバエは、自然界のイエバエと比較しても、10倍以上の生産効率を実現できるのです。

圖師 それだけの長い期間、膨大な数の改良が重ねられてきたことに大変驚きました。そうなると、串間会長の前に、研究に携わっていた方々の存在が浮かんできます。

串間 実は、この研究のルーツを辿ると旧ソ連の時代まで遡りまして─。かつて、旧ソ連は火星への有人宇宙飛行計画を立てていました。ところが、火星までの往復の長い年月、食料全てを狭い宇宙船内に載せること、また飛行士の排泄物処理が大きな問題になったのです。そこで、宇宙船内でのバイオリサイクルが必要になり、その時に選ばれたのがイエバエでした。研究は進められましたが、ソ連崩壊後にその技術をロシアから私たちが引き継ぎまして。1970年代から現在に至るまで脈々とイエバエのサラブレット化を続けるとともに、実用化に向けて試行錯誤を繰り返してきたわけです。

圖師 もともとは旧ソ連が始めた技術を、先代から会長へと一手に引き継がれたとのことですが、今日に至るまでの過程には、さまざまな苦難があったかと思います。それらを乗り越えてきた力の源は何だったのでしょうか?

串間 未来の子どもたちに、安心かつ安全な食べものを提供したいという思いですね。食糧というものは、人が生きる上での全ての基本だと捉えておりまして。例えば飢餓がなくなって、みんながお腹いっぱいになれば、食糧問題や栄養面などに貢献できるだけでなく、世界中で起きている紛争さえも減らせるのではないかと考えています。確かにプレッシャーがのしかかり大変なこともありますが、「これは人類を救う最高の技術」と信じてこれまでやってきましたし、おかげさまでやりがいに満ちた日々を送れていますよ。

圖師 では、最後に今後の展望をお聞かせください。

串間 世界中に当社のプラントを数千、数万と普及させていき、昆虫産業におけるメジャーな存在になって豊かな地球を取り戻したいと思っております。長年の研究の成果が実り、いよいよ量産化体制を整えるべく、私たちは大規模な資金調達フェイズに移りました。インセクトテクノロジーの分野では、100 億円以上集めているところも数社ありますから、彼らの強み、我々の強みを生かし、昆虫産業として、人類が抱えている問題の解決に少しでも貢献したい。そうして、持続的社会の実現という壮大なビジョンをかなえるべく、今後も突き進んでまいります。


 
 

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