コラム

――『分身ロボットカフェ DAWN ver.β』では、さまざまな事情により外出が難しい方々が、分身ロボット「OriHime」、「OriHime-D」を遠隔操作して接客を行っています。まず、分身ロボット開発の背景についてお聞かせください。

▲ 「OriHime」を操作する三好氏と話している様子。このように、カフェ利用者は「OriHime」を通じてパイロットとの会話を楽しめる。インバウンド客も多く、パイロットとカフェ利用者が英語で和やかに会話している様子も見受けられた
青木 当社の創業者であり代表の吉藤オリィは体が弱く、小中学生の頃に不登校だった期間があります。その経験から、彼は「孤独の解消」を目指すようになりました。車いすの開発や、人工知能との対話に関する研究を経て、吉藤が最終的にたどり着いたのが“分身ロボット”でした。というのも、吉藤自身の人生の転機には、いつも“人との出会い”があったからです。たとえ外出が困難な状況にあっても、人と出会い、関係を深めるためのツールとして開発されたのが「OriHime」でした。
――本日は広報担当の三好さんとも「OriHime」を介してお話ししています。三好さんはカフェでの勤務を経て、現在の広報職に就かれたそうですね。
三好 はい。私は生まれつきSMA(脊髄性筋萎縮症)という難病で、現在は電動車いすを使って島根県で1人暮らしをしています。2018年からパイロットとして働き始め、数年前からは、(株)オリィ研究所でプレスリリースやオウンドメディアの記事作成、配信業務といった広報の仕事を担当しています。
――三好さんは「OriHime」をどのように操作されているのでしょうか?

▲ カフェ奥にはバーカウンターも。写真右端のロボットは、「テレバリスタ」。バリスタ研修を受けたOriHimeパイロットがフレンチプレスでコーヒーをいれてくれる
三好 私の場合はPCのマウスを使って操作しています。ボタンをクリックすることで、手を振ったり、首を動かしたりすることができるんです。Zoomのようなオンライン会議だと画面越しなので“その場にいる感覚”が薄いのですが、「OriHime」は自分の分身としてその場に存在してくれるので、対話相手と同じ空間を共有しているような気持ちになります。
――今お話ししている間にも三好さんが時々頷いてリアクションしてくださるので、実際に対面で話しているかのような感覚がありました。店内ではお客さんがパイロットの方々と笑顔で会話したり、記念撮影をしたりしていて、体験をエンターテインメントとして楽しんでいる様子が印象的です。分身ロボットの最初の活用先として、カフェでの接客を選ばれたのはなぜですか?
青木 「働く」ことの入り口として、カフェなどで接客業を経験するのは非常に一般的ですよね。現場での肉体労働から始まり、徐々にマネジメント職やバックオフィスの業務にステップアップしていく――そんなキャリアの積み方を、移動困難者の方々にも「OriHime」を通じて実現してほしいと思ったんです。
――このカフェで働くことはゴールではなく、働く選択肢を広げるための第一歩なのですね。
青木 その通りです。パイロットの方々にはまず『DAWN ver.β』で接客を経験していただき、その後のステップとして、外部企業様から受託している案件――行政施設やイベント会場での案内、他の飲食店での接客などに携わっていただきます。最近では、大阪・関西万博のレストランで案内業務を担当した例もあります。さらにその先のステップとして、三好のように当社で広報やインサイドセールスといった業務に従事するケースもあれば、他社へ就職して、その企業の社員として活躍するケースもあります。実際に、製薬会社の広報部に入ったパイロットもいるんですよ。
――『DAWN ver.β』が、移動困難者の方々の可能性を広げる場所だということがよくわかります。三好さんはパイロットとして働いてみて、どのような変化を感じられましたか?

▲ 配膳をしている「OriHime-D」。「OriHime」のデザインは能面がモチーフなのだそう。パイロットの個性や表情を想像できるよう、あえてシンプルなデザインにしている
三好 「OriHime」を使って働くまでは、家に来てくれるヘルパーさんや看護師さん、病院の方々以外と関わる機会がほとんどありませんでした。でも、カフェで働くようになってから人とのつながりが増え、「ありがとう」と言ってもらえる機会も多くなったんです。社会の中で“役割”を持てたことは、自分にとって非常に大きい変化でした。
青木 三好の言うとおり、鍵になるのは「役割」です。移動の困難な方が孤独を感じやすい背景には、移動の問題、対話の問題、そして“役割の欠如”があります。誰かに助けてもらう一方だとつらく感じてしまうこともありますが、“働く”という役割を持つことで、社会に貢献できているという実感が生まれ、自己肯定感の向上につながります。私たちは、障がいを個人の問題とは捉えていません。社会の環境が整っていないために、ある状態が障がいとみなされてしまうのだと考えています。「OriHime」は、外出困難な方々が社会の障壁を越えるためのツールなんです。
――環境側にある障壁を、テクノロジーで越えていくという考え方に、大きな希望を感じました。それでは最後に、今後の展望をお聞かせください。
青木 今後は「OriHime」とパイロットが活躍できる場所や機会をさらに増やすとともに、「OriHime」の存在をより多くの方に知っていただくことを目指します。新たな取り組みとして、参加者の肩にのった「OriHime」を通じてパイロットが日本橋の街を案内するガイドツアーもスタートしました。事故や病気、その他さまざまな事情で、誰もが突然“移動困難者”になる可能性はありますし、高齢になれば寝たきりの状態になることもあります。そのとき、自分の役割や生きがいを持てる社会であれば、誰にとっても幸せですよね。どんな状況になっても、誰もが人とつながり、生きがいを持って生きられる「寝たきりの先の未来」をつくること。それが私たちの使命です。
写真:坂本 隼
カフェには、「OriHime」の操作体験ができるスポットも。また、『DAWN ver.β』はDEI※を体感する場として企業に活用されており、「障がい者雇用を進めたいけれど、どうすればいいかわからない」と悩む経営層がパイロットと実際に接することで、障がい者雇用を身近に感じたり、「特別な接し方をする必要はないのだ」という気付きにつながったりするケースも多いのだという。※ 企業経営において、多様性を尊重し、公平に機会を提供することで、誰もが活躍できる環境を整備すること
(株)オリィ研究所・広報青木 唯香 筑波大学大学院修了後、PR会社にて医療・ヘルスケアに関わる広報コンサルティング業務および、広報活動の実行業務に従事。2024年より(株)オリィ研究所の広報として、「コミュニケーションテクノロジーによって人類の孤独を解消する」理念や取り組みを社会に伝える仕事に携わっている。 分身ロボットカフェ DAWN ver.β 【所在地】 〒103-0023 東京都中央区日本橋本町3-8-3 日本橋ライフサイエンスビルディング3 (1F) 【営業時間】11:00-19:00 【定休日】木曜日(祝日の場合は営業) 【URL】 https://dawn2021.orylab.com/ |
(株)オリィ研究所・広報