コラム

「海外展開を進めていくうえで、特に現地の人の気質やものの考え方が知りたい」。そんな声にお応えして、海外ビジネスの経験を豊富に持つ(株)サザンクロスの小田切社長が、世界各国の国民性を解説!より良い人間関係を構築することは、ビジネスの大きな成果へとつながるはずです。第33回は、海外の国々における代表的なビジネス習慣や商慣習について、ドイツ編をご紹介します。
皆様、こんにちは。(株)サザンクロスの小田切武弘です。本誌の2020年9月号から、海外でビジネスを進める際の現地ローカルスタッフへの接し方や、仕事の依頼の仕方、スムーズなコミュニケーションの取り方などにフォーカスしたコラムを執筆し、このシリーズでは皆様から特にご要望が多かったタイ国関連のコラムからはじまり、韓国、米国、中国、インド、ロシア、アラブ諸国と連載を続けてまいりました。2024年5月号からは海外の国々における代表的なビジネス習慣・商習慣について米国、オーストラリア、シンガポール、中国、韓国、インド、タイ、UAE、トルコ編を執筆しました。今号では読者の皆様からご要望の多かったドイツについて焦点を当ててまとめていきます。今後についてはロシア編の執筆を予定しています(ご要望の国がありましたら、可能な限りお応えいたします)。
はじめに
ドイツ連邦共和国。最新の外務省データによると、国土は35.7万平方キロメートル(日本の約94%)で、人口が約8,482万人です。言語はドイツ語。宗教の割合はカトリック(26.7%)、プロテスタント(24.3%)、ユダヤ教(0.1%)となっています。首都であるベルリンの人口は約368万人。*1 2024年度における国民1人当たりの名目GDPは54,960ドル(※日本は同36,030ドル)。消費者物価上昇率は2.5%となります(日本は同2.7%)。*2 また、ドイツの産業構造はサービス業(約70%)、製造業(約30%)、農業(約1%)となっており、特に製造業が強みになっています。製造業の主な内訳としてはフォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツ、ポルシェなどに代表される自動車関連20%をはじめ、工作機械12%、その他にBASFやバイエルのような化学・製薬や、シーメンスといった電気機器が占めています。
①合理主義と時間厳守
ドイツ人は日常生活でもビジネスの場でも、合理的な判断意識と、厳格な時間感覚を持っています。筆者もドイツ人と同じプロジェクトに携わった際に感じましたが、彼らは出社時間、会議の時間、終わる時間、退勤時間に特に厳格です。社内ミーティングであっても顧客とのミーティングであっても同様で、自他双方に対して、「道路混雑のため遅れる」とか「前の会議が長引いてしまって」という説明はほぼ通じません。また業務についても、「いつ・誰が・何を」という細かな点まで、毎回の会議できちんと確認をしながら進めます。そして会議で示された目標は、必ずその企業の掲げる標語やキャッチコピーにつながっています。そのため配布資料やプレゼン資料についても5W1Hを簡潔に記載し、論理的にストーリーを展開していくことが大切です。
②相手の敬称について
ドイツ人ビジネスパーソンは多くの場合、業種にかかわらず、初対面の時はまず名字で呼び合います。英語のミスター(Mr.)に相当するヘル(Herr)、女性(Miss, Mrs.)にあたるフラウ(Frau)を名字の前に付けます。また、相手が学位や公的な専門資格などの肩書を持つ場合はそれを重視して呼びます。大学教授であるならば(Prof.)、医者や博士号を持っている場合には(Dr.)です。これは相手への敬意を表しており、ドイツ人は特に気にします。例えば、ビジネスの場面で初対面の時や、まだ距離感のある時などはズィー(Sie)を多く使っています。ビジネス関係が長く続いていて、相手からドゥ(Du)と呼び合おうという提案があれば、それはお互いの信頼関係が築かれた証です。いわゆるファーストネームで呼び合う関係にまでなれたということになります。
③論理的思考の重視
ドイツ人ビジネスパーソンは社外・社内を問わず、ミーティングをする際に、「目標に向かい論理が一貫していること」「目的を実現するための最短距離であること」「しっかりしたエビデンスがあること」を何より重視します。そのようなビジネスパーソンが相手からの信頼を得やすくなるということです。そのため、私的感情や世間の風評を極力排し、事実に基づいて粛々と意見する姿勢が求められます。
④書類面の大切さ
契約書や合意書、商談議事録などの書類に対しての意識の高さも、ドイツ人ビジネスパーソンのビジネス習慣の1つです。 会議の際の議事録から、顧客に提出する提案書、見積書、仕様書、成分表、作業工程表、合意書、契約書まで、とにかくドイツ人ビジネスパーソンはビジネスの際、書面を最重要視しています。そしてその内容が正確であり、合法的であることはもちろんのこと、「目標達成するための方向性に合っているのか」「合理性はあるのか」「実現可能なのか」「予算に対して妥当か」「万が一の場合の責任はどうなるのか」など、さまざまな観点から、書面を通じた情報共有を丁寧に行います。契約書を反故にするようなことは、ドイツでは許されないのが基本です。
⑤仕事とプライベート
ドイツ人には、ビジネスタイムとプライベートを明確に分ける文化があります。勤務中は集中して仕事に取り組みますが、退勤時間はきちんと守り家路に就く人が多くみられます。もちろん自分の業務の都合で残業をしている人もいますが、それは自分の仕事のスケジュールや約束事を守るためです。したがってドイツ人ビジネスパーソンは自身の仕事の計画性を重要視し、合理的に仕事を進める傾向が強く、目先のメリットを考えるケースは珍しいと言えます。日本のように退勤後に職場の仲間と飲みに行くこともなくはありませんが、その頻度は少ないように感じます。それだけに、同じ職場の同僚や上司とはオフィス内で良い人間関係を構築したいと考えています。また、良い距離感を保つという意味から、あまりプライベートなことは深く言及せず、仕事仲間や顧客としての良好な関係を維持しようとする傾向があります。
⑥契約合意までの留意事項
ドイツ人ビジネスパーソンとの契約で、合意まで辿り着いたとしても、その時点で安心してはいけません。例えば、客先との営業ミーティングがあったとしましょう。私たち日本人は「これでA社と契約確定だな」と思いがちですが、ドイツではそうではありません。確かに営業部門としては特に問題はないのですが、ドイツでは、エンジニアリング部門や経理部門、法務部門など、他の関連部署全体から契約をするための社内合意を取ることが必須となります。したがって多くの場合、最終的な会社対会社の契約書を締結するまでには時間がかかると考えておきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。書面重視やその確実な履行など、日本との類似点も感じられたのではないでしょうか。次回はロシアの代表的なビジネス習慣・商習慣についてお伝えしてまいります。お楽しみに。
《追記》
1年程前から、企業のオーナー経営者様、社長様など、多くの方より「国内で事業展開をしていく際の進め方や、社内諸制度の構築や見直しについても執筆してもらえないでしょうか」とのお問い合わせを頂戴しています。個別契約をさせていただくこととなりますが、もし皆様からのご要望があれば、国内ビジネスに特化し、数回程度のシリーズでコラムを寄稿させていただきます。ご希望がございましたら、弊社メールアドレス(sc_minamijyujisei@yahoo.co.jp)を通じてご連絡をいただくか、COMPANY TANK 様へご連絡をいただければ幸甚です。
参照:*1「外務省ドイツ基礎データ」
*2「2025年10月:外務省経済局主要経済指標」
いくつかのドイツ企業の代表的な標語(2026年1月時点)
・メルセデス・ベンツ:最善か無か(The best or nothing)
・BMW: 駆け抜ける歓び(Sheer Driving Pleasure)
・ポルシェ:代わりになるものは無い(There is no substitute)
・バイエル:すべての人に健康を、飢餓をゼロに(Health for all, Hunger for none)

| 株式会社 サザンクロス 代表取締役社長 小田切 武弘 海外志向が強く、学生時代に海外留学を経験。学業修了後は、大手電気機器メーカーや飲料・食品メーカー、総合商社など数社にわたって、米国、インド、韓国、東南アジアといった諸外国に駐在。その中で、海外でのビジネスに苦戦する日本企業の存在を知り、自らのノウハウを提供したいという思いが芽生える。2017年7月7日、企業の海外展開をサポートする(株)サザンクロスを設立した。 http://sc-southerncross.jp/ |
