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コラム

オフを充実させ、より良いビジネスライフを! 大人が楽しむアウトドア考

キャンプやサバイバルに関するアウトドアスクールを主催しているイナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。真冬のキャンプは、その時期ならではの自然の様子を味わえるが、十分な備えを怠れば低体温症の危険にさらされ、命にも関わる。今回は真冬のキャンプを安全に、心地よく楽しむため、低体温症についての知識や対策について筆者が解説する。

◎低体温症について

寒い――。真冬のキャンプで最初に感じることは、やはりこの一言に尽きる。アニメや映画などの映像作品の中で冬のキャンプが描かれることはあるが、その多くは「寒いね」と言葉にする程度で、実際のフィールドで肌に突き刺さる寒さや命の危険に直結する厳しさまでは伝わってこない。室内で視聴する側からすれば無理もないが、現実のアウトドアでは「寒さ」は時に命を脅かす要因となる。その代表例が低体温症だ。

低体温症という言葉を耳にしたことがあるだろう。人間が生きていくうえで体温を守ることは非常に重要であり、災害時や野外活動では空気の確保に次いで優先度が高いとされている。では、私たちの体温はどのように維持されているのか、その仕組みを少し理解しておこう。

人間の平熱はおよそ35〜36度台に保たれている。体温には皮膚で測る表面体温と、腸内などで計測される深部体温がある。深部体温は通常の生活では測定しないが、生命活動にとっては特に重要だ。体温を一定に保てる私たち哺乳類は「恒温動物」と呼ばれる。一方、外気温に応じて体温が変わる魚類や爬虫類などは「変温動物」とされる。

恒温動物のメリットは、多様な環境で活動できることだ。夜間や寒冷地でも動けるのは体温を維持できる仕組みのおかげである。しかしその代償として、大量のエネルギーを必要とする。つまり恒温動物は飢餓に弱い。エネルギーが不足すれば体温維持が難しくなり、命に関わる。

では、体温はどのような仕組みで保たれているのだろうか。大きく分けて次のような機能がある。

◎熱をつくる仕組み

● 基礎代謝:肝臓・心臓・脳などは安静時でも多くの熱を生み出している。
● 運動:筋肉が収縮する際にエネルギーの一部が熱となる。強い寒さにさらされると「震え(シバリング)」が起こり、無意識の筋収縮で熱を大量に発生させる。
● ホルモン:代謝を促進することで熱産生を助ける。

◎熱を逃がす仕組み

● 発汗:汗が蒸発する際に体の熱を奪う。
● 血管の拡張・収縮:拡張すれば熱は逃げやすくなり、収縮すれば逃げにくくなる。
● 呼吸:吸った空気とともに体内の熱も放散される。

脳は常に体温を一定に保つよう命令を出し、寒ければ熱を逃がさない方向へ、暑ければ熱を放出する方向へ体の機能を調整している。しかし厳しい環境下では熱の産生が放出に追いつかず、体温が下がってしまう。これが低体温症である。

キャンプは自然の中で行う活動だ。風や湿気、放射冷却など、環境要因が直接体に影響を及ぼす。体温のバランスが「熱産生<熱放出」となれば、誰にでも低体温症は起こり得る。冬季のキャンプで「厚着をすると格好悪い」と考える人もいるが、命を守る行為に見栄は不要だ。では、キャンプで低体温症を防ぐためにどのような工夫が必要だろうか。

◎服装の工夫

基本は「重ね着(レイヤリング)」である。重ね着は温度調整がしやすく、衣服の間にできる空気の層が断熱材の役割を果たす。吸湿性・速乾性の高いインナー、防寒性のある中間着、そして防風・防水性を備えたアウターを組み合わせるのが理想的だ。中でも自分が愛用しているのはウールの衣類だ。暖かさはもちろんだが、速乾性にも優れており、臭いも発生しにくい。

◎火と太陽の力

日中の太陽のありがたみは計り知れない。冬の夜明けに感じる安心感は、太陽光による温かさがもたらすものだ。しかし日没後は一気に冷え込み不安感が増す。焚き火は心強い熱源だが、炎に当たっている正面以外は驚くほど冷える。焚き火を過信せず、服装や装備で補う必要がある。

◎就寝時の工夫

夜の寒さに備える装備も欠かせない。寝袋の性能は命に直結する。快適な温度を保てる冬用シュラフを選び、マットを敷いて地面からの冷気を遮断することが重要だ。

ここで冬に寝袋が使用できる限界気温について触れておこう。限界気温と聞くと、「その気温まで耐えられる」という認識を持つと思う。あながち間違いではないのだが、それは本当の限界だと理解してほしい。簡単に言うと「体を丸めてとにかく寒さに耐える」という温度域であり、快適に休める気温ではないことに注意が必要だ。私は冬のキャンプでは、寝袋の中で過ごす時間が極端に長い。これは、服装や環境が十分に寒さに対応できていない場合の“最後の砦”ともいえる。

◎心理的な側面

寒さは体だけでなく心にも影響を及ぼす。暗さと寒さが重なると、不安感が倍増する。それは「寒さで自分の身が危ない」と思う気持ちからくるのだと思う。安心して過ごすためには「寒さをしのげる」という確信が大切だ。その意味でも、事前の準備と知識は何よりも重要である。

◎心理的な側面

寒さは体だけでなく心にも影響を及ぼす。暗さと寒さが重なると、不安感が倍増する。それは「寒さで自分の身が危ない」と思う気持ちからくるのだと思う。安心して過ごすためには「寒さをしのげる」という確信が大切だ。その意味でも、事前の準備と知識は何よりも重要である。

◎まとめ

低体温症は決して特別な状況でのみ起きるものではない。冬の山岳だけでなく、都市部での災害時や秋のキャンプでも起こり得る。自然の中で楽しむキャンプだからこそ、安全を軽視せず、体温を守る工夫を優先すべきだ。暖かさを確保できてこそ、自然の美しさや焚き火の炎を心から楽しめる。

寒さを恐れるのではなく、正しく知り、備えること。これが冬のアウトドアを安全に、心地よく楽しむための第一歩なのである。冬のキャンプでは夜空も澄んで、蚊などの虫に悩まされることもない。寒さへの対応を十分にして、冬のキャンプを楽しみに野外に飛び出してみよう。

▶イナウトドア(同)では親子向けスクールや焚き火体験なども行っております。詳しくはこちらのサイトをご覧ください。
 
https://www.inoutdoor.work/school
■プロフィール
森 豊雪

学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。
 
※保有資格
・NCAJ 認定 キャンプインストラクター
・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター
・日赤救急法救急員他
■企業情報
イナウトドア 合同会社
〒238-0114
神奈川県三浦市初声町和田3079-3
■URL
https://www.inoutdoor.work/
■X(旧Twitter)
@moritoyo1

 
 

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