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コラム

編集部のおすすめスポット探訪記 Report:10 前野原温泉 さやの湯処
訪れることでリフレッシュできる、あるいは仕事に生かせるヒントやアイデアが得られるスポットを紹介する連載企画。第10回となる今号では、都営三田線・志村坂上駅より徒歩約8分の場所にある「前野原温泉 さやの湯処」をご紹介したい。2005年に特殊金属工業(株)(現(株)特殊金属エクセル)を創業した実業家・谷口周氏の邸宅を再生してオープンされた同施設。その歴史ある和の建物と、四季折々の移ろう様を見せる日本庭園に囲まれながら、純度の高い源泉かけ流し温泉を楽しめることで、幅広い年齢や国籍の人々から愛される都内でめずらしい源泉かけ流し温泉スポットである。今回は同施設の運営元である(株)トッキンHDの常務取締役・谷口慈雨子氏に、オープンに至るまでの変遷や事業にかける思い、温泉の特長・効能などについてうかがった。

 
――「前野原温泉 さやの湯処」さんがオープンされるまでには、どのような歩みがあったのでしょうか?
 

▲ 源泉かけ流し、体に良い成分もたっぷりと詰まったうぐいす色の源泉風呂(写真左)。四季折々の樹木や花々を楽しめる露天風呂(写真右上)に、静かに自分だけの空間を満喫できる貸切風呂(写真右下)と種類も豊富だ

谷口 当施設はもともと、特殊金属工業(株)の創業者である谷口周氏の邸宅と本社があった場所でした。現在はお食事処「柿天舎(してんしゃ)」となっているこの邸宅は1946年に建てられ、以来50年以上もの歳月を同家とともに送ってきたのですが、1996年の本社移転に伴い、手入れのされない空き家となってしまったんです。私たちは、「谷口周が残した素晴らしい家屋と庭を壊してしまうのはあまりにも惜しい、どうにか後世に残したい」という思いから、跡地の有効利用を考えました。そこで、「お客様が求めるものを提供する」という当社の企業理念と重なる温浴事業を始めることにしたんです。そして、古民家再生の第一人者である建築家・降幡廣信氏と作庭家・小口基實氏に助力をいただき、現在の形へと生まれ変わりました。
 
――「さやの湯処」さんが大切にされている施設のコンセプトやテーマについても、ぜひ教えてください。
 
谷口 当施設の一番のコンセプトは、「ほ~っと和の気分」を感じていただくこと。都会の生活でストレスがたまっているお客様に、大都市の喧騒から離れた空間の中、新鮮な温泉や伝統的な日本家屋や和庭でリフレッシュして、明日への活力をつけていただきたいというのが私たちの願いです。おかげさまで、現在は近隣住民の方をはじめ、都内在住の方や外国からの旅行者まで、幅広いお客様が来店してくださっています。
 

▲ 6月には「七夕(写真左)」、12月には「キャンドルナイト(写真右)」など、季節や祝日ごとに特別なイベントを開催。邸宅や庭園には装飾が施され、その時期にちなんだ料理から特別な薬草を用いたサウナまで、多彩な催しが人気を集める
 
――なるほど。こちらの源泉風呂には、具体的にどのような効能や特長があるのでしょうか?
 

▲ 春夏秋冬と、日本庭園の四季に合わせた4つの部屋に分かれる岩盤処。夏と秋の岩盤浴室で心身を温め、冬の間でその熱を引き締める。その後は春の陽気に包まれた春の間でうたた寝をするなど、気分に応じて自由にエリアを満喫できる

谷口 最大の特長は、地下1500メートルからくみ上げた源泉かけ流しの温泉を楽しんでいただけるということです。加水をせず、源泉が浴槽に入る際に初めて空気に触れる状態を保っていますので、とてもフレッシュで、お湯が見事なうぐいす色をしているんですよ。このうぐいす色というのは、お湯が老化していない証拠なんです。当施設の温泉の正式名称は、「含よう素-ナトリウム-塩化物強塩温泉」というもので、1リットル当たり22.1グラムという非常に濃い温泉成分が入っています。そのため、温泉に入ると細胞膜を通して温泉成分が体の中にじんわりと浸透していき、切り傷や末梢神経障害の治りを助けたり、血行が良くなって冷え性を改善したりと、療養泉としてさまざまな効果が期待できるんです。保湿性にも優れていますので、浴後いつまでも体が温かい状態で過ごせて、特に寒い時期には最適です。
 
――こちらには、温泉の他に、サウナもあるそうですね。
 
谷口 はい。熱気風炉(ドライサウナ)と薬草塩蒸風炉(スチームサウナ)という2種類のサウナがございます。熱気風炉は明るく広々としたタワー型の室内で、80℃から90℃という高温の中でじっくりと汗を流すことで、デトックスや健康増進の効果が得られます。また、薬草塩蒸風炉では、和漢薬草やヨモギ、ハーブという3種類の薬草を週替わりに入れ替えており、それぞれの持つ個性豊かな香りに包まれながら、心地よい発汗を体験することができます。和漢薬草では、除菌や抗炎症作用、保湿作用などが期待できます。ヨモギの場合は自律神経を整えたり、血行を促進したりといった効果があるんです。ハーブですと、ユーカリやペパーミント、レモングラスのような香りの高いものを使用していて、消毒作用や花粉症の緩和などが期待できます。ぜひHPで週ごとの薬草のスケジュールをご確認いただき、ご自身のお好きなサウナを満喫していただければ嬉しいです。
 
――自分の好みを見つける楽しみがありますね。岩盤浴エリアでは、春夏秋冬になぞらえた4つの部屋を楽しめるとうかがいました。
 
谷口 ええ。「春の間」は苔(こけ)庭に面しまったりと過ごせるお休み処で、「夏の間」はブラックゲルマニウムなど3種類の石を使用した50℃の高温岩盤浴、「秋の間」は40℃の薬宝玉石をもとにした中温岩盤浴、「冬の間」は岩盤浴でほてった体を一気に引き締めることのできる10℃のお部屋となっています。「夏の間」は温度も湿度も高く設定してありますので、5分も横になればすぐに汗が出てき、反対に「秋の間」は湿度が低くからっとしていて、長時間横になったり、本を持ち込んでじっくり読書を楽しんだりすることもできるんですよ。
 
――お食事処の「柿天舎」では、「粗石臼挽きぐるみ十割蕎麦(そば)」が大変人気とのこと。ぜひこのお蕎麦の特長やこだわりについて教えてください。
 
谷口 国産のそば粉100%で、つなぎを加えず、そば粉と水だけで仕上げているのが特長です。そばの実の中心から外側の甘皮部分まで丸ごと粉にしていますので、栄養価が非常に高く、素材の風味と香りを存分に感じられ、のど越しも抜群なんですよ。人気のメニューは何と言っても「天ぷらせいろ」。物足りない方は、かつ丼や鮪づくし丼などの丼ものとのセットや、さまざまな食材を取りそろえた「さや御膳」もお薦めなのでぜひご堪能ください。
 

▲ 「さやの湯処」自慢の天ぷらせいろでは、揚げたての天ぷらにのど越し抜群の十割そばが味わえる(写真左)。刺身や、さまざまな旬の素材が並ぶ「さや御膳」も名物である。同施設のメニューはすべて栄養士による体に優しいラインアップだ
 
――今後、どのような展望や目標を思い描かれていますか?
 
谷口 運営元である(株)トッキンHDは1940年に創業され、2025年で85年目を迎えます。当社と当施設はともに、「創意工夫を大事にし」「他とは異なるニッチなものを探しつつ、お客様が求めるサービスをする」という理念を貫いてまいりました。その努力が実を結び、現在当施設は、Googleマップに寄せられた口コミのランキングで、東京で一番良い温泉という評価をいただいております。これからも多くのお客様に、「ほ~っと和の気分」を感じてくつろいでいただけるような施設づくりに力を尽くしてまいります。
 

取材・文:木村 祐亮
写真:坂本 隼
画像提供:前野原温泉 さやの湯処

 

Focus!
「東京にある京都の庭」というコンセプトのもと、作庭家・小口基實氏の手によって再生された日本庭園は、上流に鯉が昇るような構図の枯山水の傍らで、谷口周氏が生前に集めていためずらしい銘石が立ち並び、四季によってさまざまな装いを見せる。4月には葉を透かして見える暖かな日の光が奥座敷を照らし、桜が咲き乱れる(写真左)。夏になり苔が生え、緑が青々と生い茂り、秋には曼殊沙華が咲いて鮮やかな紅葉が生まれる。冬には、それまで辺りを彩っていた緑が色褪せ、独特の風情を醸し出す(写真右)。

株式会社 トッキンHD 常務取締役
谷口 慈雨子
 
前野の地に生まれ、祖父である谷口周氏の邸宅、日本庭園で遊び育つ。以来、(株)トッキンHDを発展させ、2005年に日帰り温泉「前野原温泉 さやの湯処」をオープン。現在同施設は東京で一番の温泉という高い評価を獲得し、東京人にとっての憩いの湯となっている。
 
前野原温泉 さやの湯処
【所在地】 〒174-0063東京都板橋区前野町3-41-1
【営業時間】9:00~24:00(最終入館受付23:00)
【定休日】年中無休
【URL】 https://www.sayanoyudokoro.co.jp/

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