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コラム

編集部のおすすめスポット探訪記 Report:9 透明書店
訪れることでリフレッシュできる、あるいは仕事に生かせるヒントやアイデアが得られるスポットを紹介する連載企画。第9回となる今号では、都営大江戸線・蔵前駅から徒歩1分の場所にある「透明書店」をご紹介したい。同店は「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、バックオフィス業務効率化のためのクラウドサービスを提供するフリー(株)がスタートした書店。「スモールビジネスに関わる人にちょっとした刺激を与える」をコンセプトとし、SNSで日々の売り上げを公開する他、店頭にChatGPTをベースに開発した対話型AIを設置するなど、ユニークな取り組みを行っている。同店の代表を務める岩見俊介氏に店舗立ち上げの経緯や、独自の取り組みに込めた思いなどについてお話をうかがった。

 
――貴店の親会社であるフリー(株)は、「freee会計」、「freee人事労務」など、バックオフィス業務の効率化を支援するクラウドサービスの開発・運営を手がけています。フリー(株)がどうして書店を立ち上げたのか、その経緯からお聞かせください。
 
岩見 創業当時のフリー(株)はベンチャー企業で、経理や給与計算などの業務を自分たちで行っていました。ですから、バックオフィス業務におけるつらさや悩みをプロダクト開発に生かすことができたんです。ただ、その後上場して会社が成長していく過程で、メンバーがバックオフィス業務に携わる機会がなくなってしまいました。1000名以上のスタッフを抱える自社の状況と、スモールビジネスの当事者であるユーザーの方々との乖離が課題になる中、改めてユーザー理解のための場所をつくろうと考えたんです。
 
――フリー(株)が抱える課題が大きなきっかけの1つだった、と。
 
岩見 ええ。また、フリー(株)は「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げています。私たちは煩雑なバックオフィス業務を効率化するサービスを提供するだけではなく、経営をもっと自由で楽しい行為にしたいと考えているんです。透明書店はそうした私たちの価値観を持続的に発信していくための場所でもあります。
 
――では、貴店のコンセプトにもフリー(株)の価値観が反映されているのですね。
 
岩見 はい。透明書店のコンセプトは「スモールビジネスに関わる人にちょっとした刺激を与える」というものです。店内には約3000冊の本があるのですが、「こんな世界があるんだ」「こんな考え方があるんだ」と世界が広がったり、インスピレーションが得られたりするような本を意識して置いています。そのテーマを軸に、ビジネス書だけではなく、人文書・小説・テクノロジーなど、幅広いジャンルの書籍を取り扱っているんです。
 
――頻繁にイベントも行っていらっしゃいますよね。これまでにどのようなイベントを開催されてきたのでしょうか?
 
岩見 刊行記念トークイベントの他、独立系書店のオーナーさんや、スモールビジネスの経営者の方々にお話をうかがうイベントを開催してきました。また、間口を広げるという意味で、「スモール」な表現の実践の場である句会・歌会も定期的に行っています。
 
――貴店の特徴的な取り組みの1つにIT技術の活用があると思います。こちらについてもおうかがいできますか?
 
岩見 当店の入口付近にはChatGPTをベースに開発した対話型AIの「くらげ副店長」がいます。くらげ副店長は店内の在庫情報をリアルタイムで把握しており、お客様との会話を通して書籍のご提案ができるんです。また、小さな書店ではスリップ(新刊書籍に挟まっている短冊状の紙)による在庫管理をしているお店もあるのですが、当店では在庫管理はすべてデータ上で行っています。POSレジで在庫の出入りを管理し、そのデータを会計ソフトと連携しているんです。
 
――そうなるとバックオフィス業務がぐっと楽になりますよね。
 
岩見 そうですね。それに加えて、デジタル化は経営状態の可視化にも役立っています。当店は現在、書籍販売・グッズ販売・イベント・レンタルスペース・飲食と5つの事業を行っているのですが、デジタル化することで、各部門がどれだけの利益を出しているのか、経営状況の全体像が把握できるんです。売り上げに関するデータが毎月蓄積されることで、今後の見通しが立ち、経営計画が立てやすくなります。
 
――それは大きなメリットですね!経営のことで言えば、貴店は毎月の売り上げを1年間、noteでリアルタイムに公開していらっしゃいました。非常に斬新な取り組みだと思いますが、この取り組みにはどのような意図があったのでしょうか?
 
岩見 プロジェクト開始当初から、私たちは透明書店を「スモールビジネスが新しく生まれる場所」にしたいと考えていました。ビジネスを始める際に不透明でわからないのが、初期費用や運転資金などお金回りのことです。私たちがそこを「明け透け」に公開することで何かを始めたい人が一歩踏み出すきっかけになるのではと考えました。
 
――貴店の取り組みからはスモールビジネスに対する本気の思いを感じます。
 
岩見 ありがとうございます。私たちはスモールビジネスの価値を信じる者として、また、スモールビジネスの当事者として本気でこの事業に取り組んでいます。ですから、当店のイベントに何度も参加してくださったお客様が、京都で棚貸し書店を始めるというお話を聞いた時はとても嬉しかったですね。
 
――貴店の理想が少しずつ形になっていると感じます。では最後に、今後の展望をお聞かせください。
 
岩見 当店ならではの色を守りつつ、年間を通して黒字を出すことが当面の目標です。それを達成することが、スモールビジネスを始めたい人の後押しにもつながると考えています。また今後は、開業を考えている方に向けて、透明書店で得たノウハウをお伝えする場をつくりたいとも思っています。そうした活動を積み重ねて、将来的にはこの場所を「スモールビジネスの聖地」にしたいですね。
 

取材・文:坪井 萌子
写真:坂本 隼

 

Focus!
岩見氏が中小企業経営者へのおすすめ本として教えてくれたのが、『いいお店のつくり方』(IN/SECTS編集部)だ。本書には書店、フランス料理店、レコードショップ、銭湯など、17の「いいお店」へのインタビュー取材がまとめられている。開店までの経緯やお店づくりの工夫だけではなく、店舗によっては開業資金や運転資金など、お金回りの情報も掲載されており、まさに、「スモールビジネスを始めたい人・携わる人に刺激を与える」1冊だ。
 
 
透明書店 株式会社・代表取締役
岩見 俊介
 
1989年生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、広告会社(株)iPLANETで、イベントを中心にしたコミュニケーションデザイン業務に携わる。その後、アパレル事業を手がけるストライプインターナショナルへ。2022年にフリー(株)に入社し、岡田悠氏と共に透明書店を立ち上げた。
 
透明書店
【所在地】 〒111-0042 東京都台東区寿3-13-14 1F
【営業時間】12:00~19:00
【定休日】火・水
【URL】 https://tomei-bookstore.com/

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