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Challenge+(チャレンジプラス)

コラム

海で遊び、学ぶ ~自然を感じて共に生きるということ~
便利さを極めながらも、自然と人との間に距離が生まれた現代社会。自然と共にあった生活が失われつつある今、海との触れ合いの中でより良い生き方を学び、人間力を育んでいく活動に取り組んでいるのが、(一社)海の学校である。創設メンバーの1人であり、プロサーファーとして幼少期から海で生きてきた堀口真平氏は、スポーツの枠組みを超えて、サーフィンと社会との接点をつくるべく奮闘している。同氏の活動と、「海に遊び、海に学び、海に生きる」という理念を発信していくコラム。

ビーチクリーン

私たちは長年ビーチクリーンをやっています。皆さんも浜辺を歩いていて、一度は「あ、ゴミが落ちているな」と思ったことがあるのではないでしょうか?

まず「ビーチクリーンとは何ぞや?」ということを少しお話しさせていただきます。文字通りBeach (浜辺)をClean (お掃除)する行為なのですが、私がこの活動を通して伝えたいのは“浜辺に落ちているゴミのほとんどはその場で捨てられたものではなく、いろんな場所から流れ着いたものである”ということです。その大きな割合を占めるのが河川。川は上流の街を通り海へ注ぎます。その途中で捨てられた物はすべて海に辿り着き、沖に流されるものもあれば、波や海流によって海岸線に打ち上げられるものもあります。

これは日本だけの問題ではなく、世界中での意識改革が必須な環境問題と言えます。例えば、私の地元である和歌山県では、西風が吹くとハングル文字のビニール袋や漢字ばかりの袋が浜辺に漂着します。これらはその国から流れてきたゴミ、ということです。東日本大震災の時には、流れ出た物がアメリカまで流れ着いたという話も耳にしたことがあります。今、私が住んでいるハワイにおいてもマイクロプラスチックが問題になっており、太平洋を長い間漂流した細かいプラスチックが、美しい浜辺に打ち上げられています。

このままいくと(なんなら今でも?)プラスチックを食べている魚を人間が口にし、その人間がまたプラスチックを廃棄する悪循環が生まれてしまいます(循環の話は前回のコラムを見てもらえればと思います)。この地球規模の大問題は、私たち人間の「ほんの少しのポイ捨て」が大量のプラスチックやゴミを生み出し、私たちに返って来る、手に負えなくなってきているというところにあると思います。

この「ほんの少しのポイ捨て」は一人ひとりの無知と心の在り方によって起こっているものであるということは間違いありません。私たちは海の学校にてサーフィン・ボディボード教室を行った後にビーチクリーンも行うのですが、その時に子どもたちにこう問いかけます。「このゴミはどこからきたのだろう?」。子どもたちは勢いよく答えてくれます。「誰かが捨てた〜!!」。はい良くできました!なのですが、ここで伝えるべきなのは、まさしく「誰かが捨てたからここにある」ということなのです。

もちろん現代社会で人間が生活して生きる以上、ゴミは出ます。仮に原始時代の生活だったらゴミは出ても自然分解されるものしか出ないと思うので、当時は小さい物なら海などへポイ捨てしても問題なかったのかな、と思います。昔、漁師のおじさんが船で魚をさばいて要らない部分をポイポイ捨てていたのを見た時はショックでしたが、それは循環するモノなのでOKということだったのです。しかし、別の漁師のおじさんはタバコも一緒に捨てていて、「それは違うでしょう」と思った記憶があります。

少しゴミの内容についてのお話になりましたが、私たちはビーチクリーンをする時にゴミはもちろん分別しますし、特にプラスチックや自然に戻らない人工的なゴミから優先して拾います。現代の人間がつくったり使ったりした物は、自分たちでちゃんと処理するべきです。自然の力だけでは自然に戻れない物質が多く存在します。そこで、「人の心」が大切になってきます。

心クリーン

私は、ビーチクリーンも大切ですが、「人の心クリーン」がもっと大切だと思います。私の経験では、ビーチクリーンはやってもやってもキリがないというのが正直な感想です。だからと言ってビーチクリーンをやらないという選択は無いのですが、一段レベルを上げたお話をすると、ゴミがあるから拾わなければならないのであって、ゴミが無ければ拾わなくても良いのです。私がビーチクリーンで学んだことの1つは「拾う人は捨てなくなる」ということです。

目の前にあるゴミを拾い、きれいなビーチにすることも大切ですが、もっと大切なのは、ゴミを拾うという行為を通じて自然の懐に一歩入り込み、その尊さを感じ、その人の自然への思いやりの意識を高めていくことです。それこそが、私が今感じているビーチクリーンの意義です。拾うことにより捨てなくなり、一人ひとりの心が、そして生き様が変化していくのです。人の心がきれいになれば、ゴミをポイポイ捨てることはなくなります。きれいに使って、きれいに分別し、ゴミを処理することでしょう。最近は子どもたちへの教育も進んでいて環境問題への意識はとても良くなってきていると思いますが、周知と徹底がもっともっと必要です。みんなで協力し、一人ひとりの心がきれいになっていくビーチクリーン、街角お掃除、キッチンでの心配りなど、コツコツと前向きな行動を心がけたいものですね。

堀口 真平 Shinpei Horiguchi
 
Professional surfer。1982年8月25日生まれ。和歌山出身、ハワイ在住。プロサーファーの父を持ち、幼少期からハワイでサーフィンを続け、試合や取材で世界各国を飛び回る。自身の経験や、サーフィンの素晴らしさを伝えるべく、ブランドイメージの向上や、より良いstyleの在り方を提案する自然派ビッグウェーブサーファー。これまでに数々のサーフィン雑誌の表紙を飾る。2018年に(一社)海の学校を設立。ハワイパイプラインで行われる「Da Hui Backdoor Shootout」 大会でチームジャパンのキャプテンも務め、今なおサーフィンの探求を続ける。
 
2000年 xcel pro(sunset beach Hawaii )7位
2001年 Hansen Energypro(pipe line Hawaii) 13位
レッドブルTaifu ビッグウェーブイベント参加
 

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