コラム
キャンプやサバイバルに関するアウトドアスクールを主催しているイナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。まだまだ暑い日が続く9月。休日にプールや海に出かける方は多いだろう。水泳は循環器能力や筋力の向上に効果があると言われている。今回は、うまく泳ぐコツからスキューバダイビングまで、水の中で楽しむためのポイントを記していく。
◎まずは水に浮くことから始めよう
人間は水の中では生活できない生き物だ。これは当たり前のことだが、そんな人間も水で楽しむことができる。私はたまに水泳をするのだが、先日、何年かぶりにクロールをしてみたら、これが25mも泳げないのだ。そのプールで知り合った方に水泳の指導をしていただいたところ、力が入りすぎていて足が沈んでいるという指摘を受けた。どうやら、「泳ごう」という気持ちが強すぎて全身に力が入り、足がバタバタしているらしい。
確かに、下半身が完全に水の中に沈んでしまっていて、水の中でもがいているような感覚だった。なかなか前に進まないとさらに余計な力が入り、腕の力で強引に前進しようとする。余裕がないため、息継ぎもしっかりできない。それがゆえに、長時間泳ぐことができずに終わってしまう。本当に悪循環だ。「もっと力を抜いて。最初は水に浮かぶ練習だけをするといい」というアドバイスにしがたって、両手を伸ばし、まっすぐ浮いた状態で手も足も動かさずに壁を蹴り、スーっといった感じで水の上を進む。すると、これが足が浮いている状態なのだと実感できた。何もしていないのに、ジタバタしている時よりもよほど前に進むのである。
その状態から今度は足を少し水面でパシャパシャさせるだけで進んでいく。すると足の甲が水面に当たる感じが伝わってき、体もだいぶ楽になった。
そのプールで会った先輩は、一度に1km泳ぐらしい。クロールで25mも泳げなかった私からすると驚くべき距離である。そんな私も指導を受けたことで、25mは楽に泳げるようになった。現在は少しずつ距離を伸ばしていこうと、フォームが乱れないようにしながら練習を繰り返している。
◎海で泳ぐ際に知っておきたいこと
プールは真水だが、これが海水となると塩分を含み、その塩分が体を浮きやすくしてくれる。塩水の濃度が上がるほど、より重いものを浮かせることができるようになるからだ。したがって海のほうが泳ぐのが楽ということになる。しかし、私の場合は泳ぐためだけに海に行くことはほとんどなく、海岸からの景色や水中の様子を楽しむために足を運ぶことが多い。
水の中を楽しむための比較的簡単な方法として、シュノーケリングが挙げられる。ただ、シュノーケル(呼吸用のパイプ)の使い方を誤ると水を飲みこんでしまうため、注意が必要だ。水の透明度が高い海などで、浮き輪やライフジャケットを装着して水に浮きながら、水中眼鏡を水面につけて魚などを目で追う。南国の海であれば魚もカラフルなものが多く、目を楽しませてくれる。
ただ、この方法では水の表面近くしか楽しむことができない。浮き具を着けているので安心ではあるのだが、そのぶんだけ水の中に潜りにくいからだ。ある程度泳ぎに自信があれば、浮き具を着けずに水中眼鏡とシュノーケルだけで海に入ってみるのがいい。シュノーケルの中に入った水を「フッ」と一気に吹き飛ばし、その直後に息を吸い込み、スーっと水中に潜っていく。肺に空気が入っていると潜りにくいので、少し息を吐きながら潜っていくと潜水速度が上がっていくのだ。
その他、重りを着けたり、足ヒレを着けたりする方法もあるが、重りは浮上に関してはマイナスに作用するので、装着はできるだけ慎重にしたい。私はさほど経験値が高くなく、また怖いので、素潜りではめったに重りを着けない。足ヒレはたまに着けるが、その際、魚に尾ビレがあるのは本当に理にかなっていると感じる。それがあるかないかで格段に速度が違うのだ。
いわゆる素潜りの場合は、目的の場所まで早く行けるかどうかは自分の呼吸次第だが、足ヒレがあるとそれに要する時間が大きく変わってくる。まさに魚になった心持ちになるのだ。
◎水中での環境変化に適応する方法
素潜りをする時に感じるのは、水圧と水温の変化だ。水中では、10m潜るごとに、水圧が1気圧ずつ上昇する。10m潜るというのは素人には容易ではないが、潜ると圧力が上がるので、鼓膜などが圧迫されて痛みを感じるのだ。それを防ぐために「耳抜き」を行う。耳抜きには幾つかの方法があるが、私がよく行うのは鼻をつまんで耳に圧力をかけるというものである。それによって、鼓膜が外の圧力とバランスを取り、耳の圧迫感や痛みがなくなるのだ。この耳抜きができないと、おそらく潜水は厳しいだろう。
水温の違いについても触れておきたい。当然ながら、水面近くは太陽などの熱もあり、水の中と比較すると水温が高い。そのため、潜水すると一気に水温が下がったように感じる。
また同時に、水の中が揺れるように感じられ、その後は眼前が鮮明になる。水は冷たく感じるのだが、クリアな海中を見るのは大変心地よい体験である。水中眼鏡とシュノーケルの他、体温を守るために「ウエットスーツ」などを着用すると海を楽しめる時間も増えるだろう。
◎海に潜った時に実感したこと
潜水艇など特別なものを使わず、人間の体のみで水中に潜る方法としては、空気ボンベを背負って潜るスキューバダイビングがある。空気ボンベを背負っているので長時間(30分~1時間)水中散歩を楽しむことができる。私自身は観光向けのダイビングしか経験がないのだが、素潜りでは楽しめない深さや時間で海中を楽しむにはスキューバダイビングがうってつけだ。
以前、海中で魚に突かれたことがある。最初のうちは人懐っこい魚だなと思っていたが、実際は自分のすみかを襲いに来た敵とみなし、私を追い払うために向かってきたのだった。すみかの近くに行くと、その魚は再び寄ってきて私を攻撃してきた。生きて子孫を残すために必死なのだろう。自然界は、地上も水中も弱肉強食の摂理の中で食物連鎖により成り立っている。私はそこに人間が介在しすぎることで、そのバランスが崩れているのではないかと懸念することがある。
人間も自然界の一員として食物連鎖のバランスを保つ存在でありたい。生命の起源である海を眺めながら、ふとそんなことを思う。
森 豊雪 学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。 ※保有資格 ・NCAJ 認定 キャンプインストラクター ・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター ・日赤救急法救急員他 ■企業情報 イナウトドア 合同会社 〒238-0114 神奈川県三浦市初声町和田3079-3 ■URL https://www.inoutdoor.work/ ■X(旧Twitter) @moritoyo1 |