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コラム

オフを充実させ、より良いビジネスライフを! 大人が楽しむアウトドア考

キャンプやサバイバルに関するアウトドアスクールを主催しているイナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。2024年1月1日に起きた能登半島地震。大きな被害をもたらしたこの地震をきっかけに、改めて災害対策を考えた方も多いのではないだろうか。今回は災害対策の1つとして近年注目されている「EDC(Everyday Carry)」について考察する。
 

◎日頃から災害に備えておくことの大切さ

ちょうどこの原稿を書き始めた頃、石川県の能登半島で大きな地震が起き、甚大な被害が発生した。改めて、亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された地域の1日も早い復興を願うばかりだ。

地震大国と言われる日本では地震は避けられないものだと理解しているものの、毎日そのことばかりを考えて生活していては精神的に参ってしまう。そうならないためにも、普段から緊急事態を想定して最低限の備えをしておくことで気持ちがいくらか楽になるのではないだろうか。

東日本大震災が発生した2011年3月11日、私は神奈川県で仕事をしていた。会社から自宅までは約60km。幸いにも職場は大きな被害を受けていなかったが、交通機関が大渋滞しているという情報を目にし、私は夜半近くまで会社にとどまっていた。その後、まだ首都高速も止まったままだという情報を耳にしたものの、少し車が流れるようになったため、自宅に帰ることを決断したのだった。

しかし、会社を出て少し走ったあたりで再びかなりの渋滞に巻き込まれ、車は本当にゆっくりとしか進まない。時間は深夜1時頃で、ふと窓の外を見ると国道沿いの歩道を大勢の人たちが歩いていた。おそらく電車などの公共交通機関が停止しているので徒歩で自宅に向かっていたのだろう。その途中にはこんな時間なのに、地震で帰宅できない人のためだと思われる開放された施設があり、ロビーなどで多くの人が休憩している姿を目にしたことを覚えている。私はといえば、幸いにも会社にあった飲み物を手にしていたが、いま歩いている人たちはどうなのだろうかと思わずにいられなかった。コンビニエンスストアも使えず、自動販売機も停止しているか売り切れのものばかり。私の自宅は比較的被害が小さかった神奈川県なのでまだ歩いて帰ることも可能かもしれないが、もっと被害が大きくて気温も低い東北のことを考えると、暗たんたる気持ちになってしまった。

大きな自然災害が起きた時の備えとして、大半の方は自宅などに水を保管したり食料を蓄えたりするなど非常食の準備をされているのではないだろうか。しかし、一歩外に出た時のための準備はどうだろう?山奥に行くことでもない限り、多くの人は最低限の水や食料を除けば、むしろ何も用意していないのではないかと私は推測している。

◎Everyday Carry(毎日持ち歩くもの)

昔からよく言われるように、「災害は忘れた頃にやってくる」。近年、そのための備えとしてアウトドア業界を中心に「EDC」という考え方が広まっている。「EDC」とはEveryday Carryの略で、「毎日持ち歩くもの」という意味である。では、具体的にはどのようなものが必要になるのだろうか?基本的には日頃から自宅で準備しているようなもの、例えば非常用持ち出し袋などを想定していただければよい。通常だと、30ℓくらいのバックパックほどの大きさだ。とはいえ、それくらいの大きさにさまざまなものを詰め込んで毎日持ち歩くというのは現実的ではない。出勤時であれば、普通は仕事用のカバンを持っているであろうし、そもそも大量の水などを携帯するのはかなり困難なはずである。

では、どのような方法でこのEDCを用意すればよいのだろうか?防災グッズの準備に関してはさまざまな考え方があるので、今回はその1つとして参考にしていただければ幸いだ。

◎EDCづくりのポイント

EDCを準備するにあたってまず考えるべきことは、毎日持ち歩くことの必要性を鑑みて、適正なサイズにするという点である。基本的には、帰宅困難などの状況に陥った時に自分を守るためのものだという考えに立ってつくりたい。要はそうした状況の際に、外出先から帰宅するまでの間に自分の身を守れるものがそろえられるかが肝要だ。自宅からある程度距離が離れた場所で被災してしまうと、公共交通機関が利用できなくなったり、道路が寸断されたりして帰宅が難しくなることが大いに想定できる。したがって、例えば自宅から5km以上離れた場合には必ずEDCを携帯するといったようなルールを自らつくったうえで構成を考えたい。常に持ち歩くことを考えると、できればコンパクトなサイズにすることが望ましいだろう。かくいう私もいくつかのパターンをつくっている。右上に掲載している写真の黒いバッグが一番小さなもので、縦15cm、横11cm程度のサイズだ。その中に入れているのはミニライト、エマージェンシーブランケット、ファイヤースターター、浄水器など。もう1つ重要な点を挙げれば、それによって自分の命を守ることができるかということになる。もしかしたら、「命を守れるか」などと書くと、大げさに思われる方もいるかもしれない。しかし例えば、生き残りを懸けたサバイバルな環境下においては、低体温症に陥ることは絶対に避けなければならないことの1つである。そうしたことを踏まえたうえでEDCの構成を考えると、先述したように、エマージェンシーブランケットなどの体温を守るアイテムは必ず入れておこう。その他、当然ながら水や食料も必要にはなるが、あくまで自宅にたどり着くまでに一時的に必要になるものと割り切った想定のうえで用意したほうが良い。例えば、重たすぎると毎日持って出かけることがおっくうになってしまうだろう。食料であれば、ナッツのような高カロリーで手軽なものを適量持つことを推奨したい。先ほど挙げたEDCの構成例では浄水器を入れたが、都会では河川などから水を確保することが難しい。浄水器ではろ過できないケースがあることも想定して、長期保存のきく水を500mlだけ携帯するというのも一案である。

今回はEDCについて持論を展開したが、EDCはあくまでも数ある災害対策の1つでしかない。これを機に、自宅における災害対策も考えていただければ筆者冥利に尽きる。災害時にまず自分を守れるのは自分自身なのだから、そのための備えはしておきたいものだ。

▶イナウトドア(同)では親子向けスクールや焚き火体験なども行っております。詳しくはこちらのサイトをご覧ください。
 
https://www.inoutdoor.work/school
■プロフィール
森 豊雪

学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。
 
※保有資格
・NCAJ 認定 キャンプインストラクター
・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター
・日赤救急法救急員他
■企業情報
イナウトドア 合同会社
〒238-0114
神奈川県三浦市初声町和田3079-3
■URL
https://www.inoutdoor.work/
■X(旧Twitter)
@moritoyo1

 
 

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