注目企業インタビュー
伝統を残しつつ新たな風を吹き込む
誰でも気軽に入れる老舗の和菓子店
濱中 野球もレシピがない世界ですからすごく分かります。打撃理論はあっても、10年前の“正解”が今の時代に通用するかっていうと、全然そうじゃない。ピッチャーの球質も進化してるし、データの扱い方も変わった。私たちは、その時代の野球に合わせて、自分自身を変え続けなきゃいけなかったんです。
山本 お菓子づくりは決して変わらないものではなく、むしろ変わり続けていかなければなりません。例えば、パッケージを新しくすると密封される度合いが変わるため、あんこと生地の水分のバランスもあらためて調整する必要があります。また、1年中同じ製法でつくっていると、気温が高いときはべたっとなってしまいますし、逆に低いときは必要以上に固まってしまうんです。だからこそ、私たちは時代に合わせて常にお菓子の味を変え続けているんですよ。
濱中 繊細な調整が必要になってくるのですね。私も普段、お土産などで和菓子をいただくことが多いですが、こうした試行錯誤を経てお菓子の味が次の世代へと引き継がれ、これから何百年と愛されていくのだと思うと、言いようのない感動を覚えます。「駒のひづめ」以外では、一体どのようなお菓子を販売されているのですか?
山本 「玄米太子もなか」という玄米入りのもなかもおすすめです。粒あんのどっしりとした味わいと、もなかのサクサクした食感が絶妙にマッチして食べ応えのある一品なんですよ。加えて、小豆・宇治抹茶・安納芋・アールグレイ紅茶・さくらという5種類の味が楽しめる「masuようかん」も人気商品ですね。もちろん、上用饅頭・練切・雪平・きんとん・錦玉といった定番の生菓子もお楽しみいただけます。時期によって販売していないこともあるのですが、他にもいちご大福や桜餅、シャインマスカットの大福など、季節ごとに旬の食材を使用したさまざまなお菓子もご用意しているんです。
愛される和菓子の味を後世へ残したい
濱中 太子町に根付いて長い歴史を持つ「御菓子司 とらや山本」さんは、まさに地域の暮らしに溶け込んだかけがえのない和菓子店だと思います。私にとっての甲子園球場のようなものです。変わらない場所があるからこそ、そこに帰ってきたくなる。
山本 濱中さんにそう言っていただけると、とても嬉しいです。私の息子は高校3年生と小学6年生でして、下の子は「僕が継いであげるよ」と言ってくれてはいるのですが、まだ小学生なので他にやりたいことができるかもしれませんし、どうなるかはわかりませんね(笑)。また、実は当店の隣に、父が営んでいた喫茶店があるんです。今は当店とは別のオーナーに経営を任せているのですが、その方も高齢になってきたため先々のことも考えなければなりません。リニューアルして時代の流行を捉えたカフェにするなど、お菓子づくりをはじめ、さまざまなところで上手に世代交代していけたらと考えています。
濱中 私は現役時代、何万回とバットを振ってきましたけど、「あの一打があったから忘れられない」と言ってもらえると胸が熱くなりました。「誰かの心に残る一打」になれたことにうれしかったんです。和菓子も同じで、一口で人の心を動かす力があると思います。これからも“心に届くお菓子”楽しみにしています!
山本 ありがとうございます。和菓子の要はなんといってもあんこです。あんこの魅力をより多くの方に伝えていけるよう着実に新しいアイデアを生み出し、試行錯誤を続けながら、このお店を守っていきたいですね!
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