注目企業インタビュー
自然が授ける言葉を紡ぐ農民詩人
生涯、くわとペンを握り続ける
ふるさとで畑を耕し、詩をつくる

▲第67回農民文学賞の贈呈式の様子
狩野 心が温かくなるエピソードだなあ。子どもたちにとって、詩を通しての交流は良い思い出になっているはずですよ。農業を始められたのはいつ頃なのでしょうか?
武西 学校教育の現場から退いた後の2010年からです。現在は和歌山県岩出市に住み、ふるさとの高畑まで通って、農作業をしながら詩作に打ち込んでいます。
狩野 教育に、詩作に、農業ですか!私は野球しかやってこなかったですから、武西さんのバイタリティに感服します。
武西 今の私の創作の源になっているのは農業なんです。これまでに私は、詩集を10冊以上、教育関連の書籍を単著・共著あわせて30冊以上出版してきました。
狩野 それはすごい!どのような瞬間に詩が生まれるのでしょうか?
武西 私にとって詩は頭の中でつくるものではありません。畑の土を掘り返したり、山に入って木を切ったりと、筋肉に手応えが残る作業をしているときに言葉が湧き出してくるんですよ。そのときには急いでメモを取り、あとでゆっくりと詩にまとめます。
狩野 なるほど。農業で体を動かす毎日が詩作につながっているわけですね。
武西 おっしゃる通りです。日常生活の中で詩が浮かぶこともあるのですが、やはり、最も言葉が出てくるのは農作業の最中。農業を通じて自然と触れ合う喜びを体で感じているときなんですよ。ただ、詩の断片がいつ頭の中に浮かぶかはわかりません。何かに感動したときだけでなく、何気ない瞬間に急に湧き上がることもある。詩は時間も場所も選んでくれないんです。だからいくら詩を書いても書き尽くせない。今はそんな気がしていますね。
詩集『メモの重し』で農民文学賞を受賞
狩野 「詩は時と場所を選ばない」、詩人としての実感がこもった素敵なお言葉です。武西さんは、2024年には賞も受賞されたそうですね。
武西 はい。詩集『メモの重し』で第67回農民文学賞をいただきました。この詩集は春夏秋冬の4章に分けて作品を掲載しており、タイトルになっている詩は、とある親友との別れをきっかけに生まれたものなんです。親友の訃報を電話で聞いた私は、葬儀の日程などを小さなメモに書き込みました。そのメモが飛ばされないようにと思って、とっさに目の前にあった痩せたにんじんを重しにしたんです。その情景をもとに作品をつくりました。
狩野 さまざまなお話をお聞きして、武西さんの詩人としての感性に触れることができた気がします。農業と詩作に精力的に打ち込まれている武西さんですが、今後の目標についてもぜひ教えてください。
武西 私はこれまで地元紙の「わかやま新報」でコラムを連載したり、詩の朗読会に参加したりしてきました。さらに、東京、金沢、京都、広島、長崎などの国内はもちろんのことロンドン、ミュンヘン、マルタなど各地で開催された詩の展示会にも参加しました。これからも活動の幅を広げていきたいですね。
狩野 農作業や自然からインスピレーションを得て書かれた詩は、現代の人々の心に刺さるものだと思います。ぜひ、武西さんの作品が広がっていってほしいですね。
武西 ありがとうございます。私は農業も詩作も一生続けていくつもりです。おそらくこのまま死ぬ間際まで、くわとペンを握っていると思いますよ(笑)。
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