コラム

「海外展開を進めていくうえで、特に現地の人の気質やものの考え方が知りたい」。そんな声にお応えして、海外ビジネスの経験を豊富に持つ(株)サザンクロスの小田切社長が、世界各国の国民性を解説!より良い人間関係を構築することは、ビジネスの大きな成果へとつながるはずです。第32回は、海外の国々における代表的なビジネス習慣や商慣習について、トルコ編をご紹介します。
皆様、こんにちは。(株)サザンクロスの小田切武弘です。本誌の2020年9月号から、海外でビジネスを進める際の現地ローカルスタッフへの接し方や、仕事の依頼の仕方、スムーズなコミュニケーションの取り方などにフォーカスしたコラムを連載し、このシリーズではタイ国関連のコラムからはじまり、韓国、米国、中国、インド、ロシア、アラブ諸国と連載を続けてまいりました。
2024年5月号からは海外の国々における代表的なビジネス習慣・商習慣について米国、オーストラリア、シンガポール、中国、韓国、インド、タイ、UAE編を執筆しました。今号では読者の皆様からご要望の多かったトルコについてまとめていきます。今後についてはドイツ、ロシアを今のところ予定しています (ご要望の国がありましたら、可能な限りお応えいたします)。
はじめに
トルコ共和国は、最新のJETROデータによると、国土は約78万平方キロメートルで、日本のおよそ2倍の面積があります。首都はアンカラ。人口が約8,566万人で、言語はトルコ語です。宗教は約99%がイスラム教となっています。*1 国民1人当たりの名目GDPは16,708ドルです(日本は33,955ドル)。*2 GDP成長率は2.71%(日本は0.55%)*3 消費者物価上昇率は44.4%。*4 また、トルコ経済の柱はサービス業が約55%、工業が約28%、農業が約7%となります。観光業も盛んで、トルコ国内には世界遺産が22ヶ所登録されています。
①親日国の1つであるトルコ
トルコはどの媒体での調査を見ても、親日度合いがかなり高い国とされています(歴史の教科書などでもその理由が記載されているので、本稿では割愛します)。日本企業が海外に現地法人や拠点を出すか決める場合、親日度合いはその判断項目の重要な1つに挙げられます。トルコ人は国民の100%近くがイスラム教徒で、真面目で、受けた好意や恩を忘れない方が多いです。基本的に明るく、朗らかで、会社でも家庭でも友人同士でも挨拶を大切にしています。日本人に対しても、日本人ならではの真面目さや優れた技術力に厚い信頼を寄せてくれています。
トルコは工業や農業が発展していますが、貿易面での影響力は乏しく、世界に大きく影響を与えている産業品目もすぐには思い浮かばないでしょう。ただ立地的にはボスポラス海峡を挟んでイスタンブールの街の東側がアジア圏、西側がヨーロッパ圏のそれぞれの終着点であり、アジアやヨーロッパ、ロシアをはじめ、中東イスラム諸国、インド、アフリカにも通じる重要な場所になっています。
②世界の自動車産業の中心の1つ
フォード、ルノー、フィアット、メルセデスベンツなど、世界の自動車主要メーカーの多くがトルコに製造拠点・販売拠点を設けています。日本企業でもトヨタやホンダ、いすゞ、韓国企業では現代(ヒョンデ)も進出しています。製造基盤も整っているため、トルコの地の利を生かし、ヨーロッパ・アジア諸国などに自動車完成品および部品の輸出が行われています。トルコではヨーロッパと比較した場合の労働力コストが低く、自動車産業や機械工業が国の産業基盤の一角を担っています。
③商談の目的を明確にする
トルコ人は前述したように日本人ビジネスパーソンに対して真面目に対応してくれることが多いです。ただし、どの業種・会社においてもなかなか集中力が長続きせず気を抜いてしまうことが多い印象があります。だらだらとした結論が明確に出ない商談や会議も珍しくありません。そのため、事前に必ず、下記の点を短く、簡潔にまとめた案内を出すことが大切です。
①行う趣旨や目的
②主な議題
③商談や会議の時間
④結論として導き出したいこと
⑤会議の進行役、議事録作成者名
そうした案内を参加者全員に共有しておくと、商談がスムーズに進みます。
④日本人と時間感覚が異なる
トルコ人の時間の観念は、日本人とは大きく異なります。特にイスタンブールのような大都会で仕事をしていれば、当然朝夕の通勤ラッシュで道路は大渋滞をおこします。移動手段がほぼ車しかないので商談やミーティングの時間に遅れがちになります。ただしアジアの他国のビジネスパーソンと比べると、ドイツ系の企業との取り引きが多いせいか、特に企業トップクラスの方々は時間を厳しく守りますし、遅れそうな場合にはほぼ事前に連絡が入ります。また、英語についてもかなりレベルが高い方が多いです。地域によってはフランス語やイタリア語、スペイン語、ロシア語もできる方もいて、外国語習得者は他のアジア諸国と比べると格段に多いと感じます。
⑤即断即決で物事が進まない
トルコ人ビジネスパーソンは、基本的に即断即決で物事を進めない傾向にあります。責任者が即時決定する場合もありますが、筆者の体験では、たとえ決定権者がミーティングに出席していたとしても、その場で即決するような光景はあまり見かけませんでした。日本企業のように「いったん会社内で最終確認してみる」といったワンクッションを置く場面が多くあります。これはトルコ企業の場合、社長や上席役員が出席していても、後ろにはビジネスシーンの表には出てこないオーナーが存在しているケースがあるためです。
⑥物価上昇による経済の変動
トルコは前述した通り、国内の消費者物価上昇率が44%を超え、ここ数年の驚異的な物価高を抑制することがなかなかできていません。加えて主軸通貨であるトルコリラが恒常的に不安定であるため、企業経営者が舵取りを間違えると経営が一気に悪くなり、倒産に至る可能性も高くなっています。そのため、自動車などの機械産業をはじめ、多くの分野では適正な在庫量を厳しく管理しています。また人件費についても残業や休日出勤を極力減らしているため、納期も安定しているとは言えません。特に製造業関連に従事しているトルコ人ビジネスパーソンは、この点に特に注意しながら慎重にビジネスを進めています。また国際商談を行う際には、そのほとんどがユーロあるいはUSドルでの決済がメインになります。
⑦率直に話し合える関係を
トルコ人ビジネスパーソンは基本的に温厚で、朗らかにビジネスを進めていきます。しかし、理不尽に高い売値や低い製造原価など、金銭面で納得がいかない場合には、喜怒哀楽をはっきり表し感情的になるケースを何度か経験しました。そうなると、今後の商談や取り引きもその場で中止ということもありました。トルコ人ビジネスパーソンとのコミュニケーションは常日頃から多く取り、さまざまなことを率直に話し合える関係を構築しておくことが重要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回はトルコの代表的なビジネス習慣・商慣習についてまとめてまいりました。私たち日本人ビジネスパーソンはいつでも、誠実に信頼関係を積み重ねて対応することが大切です。
次回はドイツの代表的なビジネス習慣・商習慣についてお伝えします。お楽しみに。
参照:*1「https://www.jetro.go.jp/world/middle_east/tr/basic_01.html」
*2「IMF – World Economic Outlook Databases (2025年4月版)」
*3 同上
*4「https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/01/f4087291da68cb51.html」

| 株式会社 サザンクロス 代表取締役社長 小田切 武弘 海外志向が強く、学生時代に海外留学を経験。学業修了後は、大手電気機器メーカーや飲料・食品メーカー、総合商社など数社にわたって、米国、インド、韓国、東南アジアといった諸外国に駐在。その中で、海外でのビジネスに苦戦する日本企業の存在を知り、自らのノウハウを提供したいという思いが芽生える。2017年7月7日、企業の海外展開をサポートする(株)サザンクロスを設立した。 http://sc-southerncross.jp/ |
