コラム

「海外展開を進めていくうえで、特に現地の人の気質やものの考え方が知りたい」。そんな声にお応えして、海外ビジネスの経験を豊富に持つ(株)サザンクロスの小田切社長が、世界各国の国民性を解説!より良い人間関係を構築することは、ビジネスの大きな成果へとつながるはずです。第31回は、海外の国々における代表的なビジネス習慣や商慣習について、UAE(アラブ首長国連邦)編をご紹介します。
皆様、こんにちは。(株)サザンクロスの小田切武弘です。本誌の2020年9月号から、海外でビジネスを進める際の現地ローカルスタッフへの接し方や、仕事の依頼の仕方、スムーズなコミュニケーションの取り方などにフォーカスしたコラムを連載し、このシリーズではタイ国関連のコラムからはじまり、韓国、米国、中国、インド、ロシア、アラブ諸国と連載を続けてまいりました。2024年5月号からは、海外の国々における代表的なビジネス習慣・商習慣について米国、オーストラリア、シンガポール、中国、韓国、インド、タイ編を執筆しました。今号では読者の皆様からご要望の多かったUAE(アラブ首長国連邦)に焦点を絞ってまとめていきます。今後はトルコ、ドイツ、ロシアを今のところ予定しています。(ご要望の国がありましたら、可能な限りお応えいたします)。
はじめに
UAE。最新の外務省各国データによると国土は83,600平方キロメートル(日本の約1/4で北海道とほぼ同じ)で人口は約1,006万人。*1 民族はほぼアラブ人で、言語はアラビア語(公用語)、英語。宗教はイスラム教となっています。首都アブダビを主軸とする7首長国による連邦制です(右地図を参照)。1人当たりの名目GDPは51,909ドル*2(日本は33,849ドル)。*3 GDP成長率は4.8%となっています(2022年JETRO推計値)。*4 UAE経済の柱は原油、天然ガス、観光、建設、サービス業。主要貿易品目で主な輸出は原油、天然ガスであり、輸入品には自動車、機械、電化製品などがあります。
①人口の約90%が外国人
UAE全人口約1,006万人のうち最も人口が多いのはドバイ、次いで首都アブダビです。ドバイの人口は最新データで約369万人。*5 その人口比率を見ると、エミラティ、つまりUAE国籍を持つ在来のアラブ人は約11%で、インド・バングラディッシュ系34%、パキスタン系12%、フィリピン系5%、その他アラブ系やヨーロッパ系などが38%となっています。これは世界でも稀な人口比率となっており、エミラティ以外の人種は、海外大手企業からの駐在員である他、建設業や物資運送者、企業の運転手、ハウスメイドといった低賃金労働者として主にドバイに居住しています。首都アブダビも似たような人口比率となっています。
UAEではアブダビにおける豊富な石油関連資源からの莫大な収益を主軸に、ドバイの脱石油依存事業である不動産投資、貿易、海外大手企業の誘致、サービス業、観光業などによる収益があります。その収益を国民に還元すべく、医療費や公立の教育機関の無償化を行い、幼稚園から英語やIT教育を行うなどの施策を講じています。その結果、識字率はほぼ100%で高い教育水準を維持し、政府機関、公務員、企業のトップ層はエミラティが担っており、ほとんど貧困層がいません。それは公務員の給与や退職金が相当高く設定されていることも要因の1つです。
②5W1Hを明確に誠実な対応を
多くのエミラティは富裕者層で学識レベルも高く、ビジネス相手の本気度、真剣度を見抜く眼力に長けています。特に日本人ビジネスパーソンに対しては誠実で有言実行です。私たち日本人ビジネスパーソンは直接面談でもメールでのやり取りでも、5W1Hを明確にして、特にできること・できないことを1つずつ明言するのが肝要です。そして不明な点は正直に確認をして、いつまでに返事をするか誠実に取り決めつつ議論を進めていくことをお勧めいたします。
③宗教・文化を尊重する
エミラティはおおむね裕福で育ちが良いため、温厚で奥行きのある性格の人が多くいます。家族や友人、知人を大切にするため平日の定時以降や休日である金曜日、土曜日は余程のことがない限りは残業や休日出勤をしません。これは企業のオーナーでも同様です。また毎日メッカの方角に向いて5回お祈りをします。このような休日や神に祈る時間にビジネスを行うことを非常に嫌うため、エミラティ(多くのアラブ人を含む)の宗教や文化を理解して相手を思いやる気持ちを忘れてはなりません。この点については他のアラブ諸国から来た“出稼ぎアラブ人”とは大きく異なる点になっています。
④正確なメリットを伝える
エミラティがビジネスミーティングにおいて最重要視しているポイントは、「自分たちに何をもたらしてくれるのか」「自分たちの利益はどのようなものなのか」ということです。この詳細をできる限り明確にしてミーティングの冒頭に伝えることで、ミーティングの成否が決まります。
⑤即断即決を心がける
エミラティのビジネスは完全にトップダウンであり、即断即決の傾向にあります。それぞれの職位・職階によって決裁権限の内容が決まっていますが、重要な契約内容や特にお金に関係するミーティングの際には必ず決定権者が出席し、その場で各議題についてYES・NOを決めていきます。そのため、私たち日本人ビジネスパーソンがミーティングに出席する場合、「上司や本社の許可を取るので少々お日にちをください」というやり方では抵抗感を持たれてしまいます。特に決裁権のない管理職がミーティングに出席する場合には事前に上司や会社と相談し、許容範囲を明確にしてから出席することをお勧めします。あるいはミーティングの時間中に自社の決裁権者の方に時間を空けてもらい、遠隔で電話やメールでの確認を取り、許可を得る方法を取ることも良いでしょう。
⑥必要最低限の資料で簡潔に
エミラティにミーティングでプレゼンを行う場合、日本式のように結論まで2時間もかかるような資料で臨むことは回避したほうが良いと筆者は思います。エミラティへのプレゼンは資料1枚。それで結論から、このプロジェクトを遂行した際の双方のメリット、予定総額費用、予定納期などだけを簡潔に説明します。質疑応答の際には、そのように必要事項だけをまとめた資料を出して説明するようにすると、ミーティングを成功に導けます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回はUAEの代表的なビジネス習慣・商慣習ということで、既に知られているアラブ人の特徴やハラル食生活、ラマダンなどには触れず、直接的、具体的にエミラティのビジネス習慣や商習慣にスポットを当てて記述をしてまいりました。私たち日本人ビジネスパーソンとしてはいつでも笑顔で胸襟を開き、誠実に粛々と事実を積み重ねて対応していくことが基本となります。
次回は親日国の1つであり、まだあまり知られていないトルコの代表的なビジネス習慣・商習慣についてお伝えしてまいります。どうぞお楽しみに。
《筆者からの追記》
弊社ではホームページ開設以来、非常に多くの読者の皆様よりお礼の連絡やさまざまな案件のご依頼を頂戴しておりまして、改めて、皆様に感謝いたします。
一方昨今、ホームページの問い合わせから多くの悪質な勧誘や詐欺まがいの営業目的連絡が後を絶たず、法務関係者とも確認し本年7月31日をもって弊社ホームページを一旦クローズすることにいたしました。善意ある企業の皆様からのコンサルティング依頼につきましては引き続き弊社メールアドレス(sc_minamijyujisei@yahoo.co.jp)を通じてのご連絡をいただくか、COMPANY TANK様へご連絡をいただければ幸甚です。ご不便をおかけすることをお詫びいたします。
参照:*1「2023年IMFデータ」
*2「2023年IMFデータ」
*3「2024年9月内閣府発表データ」
*4「2024年9月内閣府発表データ」
*5「ドバイ政府統計局2024年~2025年」

株式会社 サザンクロス 代表取締役社長 小田切 武弘 海外志向が強く、学生時代に海外留学を経験。学業修了後は、大手電気機器メーカーや飲料・食品メーカー、総合商社など数社にわたって、米国、インド、韓国、東南アジアといった諸外国に駐在。その中で、海外でのビジネスに苦戦する日本企業の存在を知り、自らのノウハウを提供したいという思いが芽生える。2017年7月7日、企業の海外展開をサポートする(株)サザンクロスを設立した。 http://sc-southerncross.jp/ |