コラム

人生100年時代と言われ、仕事でもプライベートでも、自分の夢や目標を達成するまでには長い時間が残されているように感じられる現代。しかし時間の有限性を意識せずにぼんやりと過ごしていると、時というものはあっという間に過ぎ去ってしまう――そんな着眼点から、時間をいかに有意義に使うかを助言しているのが、Time Craft Consultantの奥村哲次氏だ。当コラムでは、大病を乗り越え自らの決意と行動によって成功をつかんできた同氏から、ビジネスに必要不可欠な「マインドセット」について学んでいく。
皆様、いつも大変お世話になっております。(株)ラフティ代表取締役、奥村哲次です。私はこれまで、さまざまな挑戦を繰り返してきました。挑戦をするたびに、必ずといっていいほど、手痛い失敗を経験してきました。でも、今は胸を張って言えます。失敗こそが、人生を前に進める最大の力だと。今回は「失敗を価値に変える力」について、私自身の経験を交えながらお話しさせてください。
失敗は、自分の器を大きくする
挑戦していると、周囲の目や、自分のプライドが邪魔をします。「失敗したら笑われるんじゃないか」「応援してくれた人に申し訳ない」。そんな声が、頭の中に響く――私も例外ではありませんでした。「Save The Surf(STS)」プロジェクトで、廃棄ペットボトルからつくる透明サーフボード「Sea Through」の開発を始めた時、正直言って「本当にできるのか」と怯えていました。試作品は何度も壊れました。試乗中にヒビが入り、耐久テストで割れ、水分が入り、理想の透明度が出ない。何が原因なのかわからず、繰り返し協力会社の方々と徹底的に議論を重ねる日々が続きました。でも1つだけ信じていたことがあります。「この失敗は、私の器を大きくするために必要なんだ」――成功体験だけでは、人は小さな枠の中に閉じこもります。失敗を何度も味わった先にしか、見えない景色があると知りました。
一度も失敗しない人生は、もしかしたらとても安全で、穏やかなものかもしれません。でも、挑戦することでしか得られない達成感もあります。5年かけてつくった「Sea Through」は、その「挑戦の証」です。壊れては直し、直しては壊れ、原因を追究し、改善を重ねる。その繰り返しだけが、前に進む唯一の方法でした。だからこそ、2025年7月1日にリリースできたときは、ただの製品発表ではなく、自分にとって1つの人生の到達点になったのです。
失敗は、仲間との絆を深める
透明サーフボードをつくる過程では、協力会社の方々と幾度も熱い議論を交わしました。「どの素材なら強度を保てるのか」「この工程に問題はないのか」など、それぞれがプライドを持ち、知恵を出し合い、何度も1から見直しました。失敗があるからこそ、真剣に向き合い、議論を尽くす時間が生まれる。「この挑戦を一緒にやりきろう」。そんな絆は、簡単には壊れないと感じます。失敗は、関わる人たちとの関係を深くする力も持っています。
数ある挑戦の中に、Voice Memo AIがあった
「Sea Through」と同じくらい、私にとって大きな挑戦だったのが、音声メモAI要約アプリ「Voice Memo AI」の開発です。このプロジェクトは、まさに「挑戦しかない」道の連続でした。市場には既に有名な音声文字起こしサービスが複数存在し、私が開発を始めた時には、競合は大手ばかり。資金も開発チームも潤沢に持つ企業が先行している中で、私1人で企画し、設計し、プログラミングしてリリースする。無謀と言われても仕方ない環境でした。ですが、それでもやろうと思ったのは、「1人でもここまでのものをつくれる」という自分への挑戦でもあったからです。最初は、HTMLでつくったアプリをElectronでパッケージしてデスクトップアプリ化しようとしましたが、動作が不安定で何度もビルドに失敗。exe化の失敗は、今思い出しても胃が痛くなるほどのストレスでした。サーバーアプリとして運用を進める中で、CORS(クロスオリジンリソースシェアリング)制限の壁に何度もぶつかりました。APIとの通信で、ブラウザが拒否反応を示し、解決するたびに別の問題が出てくる。「これ以上、無理なんじゃないか」と思う夜もありましたが、最終的にはCORSを回避する方法を確立しました。この過程で、「中継サーバーを使う」というノウハウも生まれました。他にもさまざまなトラブルに直面しましたが、その度に試行錯誤をしながら設計を練り直し、徹底的に動作検証を繰り返しました。
今振り返ると、「失敗しないとわからないことばかりだった」という一言に尽きます。何度も挫折を味わいながらも、少しずつ改善を積み重ねることで、「Voice Memo AI」をようやく誰もが使えるレベルにまで到達させることができたのです。
失敗を愛す
この歳になってようやく、「失敗は愛すべきものだ」と心から思えるようになりました。失敗がなければ、成長も感謝も誇りも生まれない。失敗があるからこそ、挑戦は価値を持つ。失敗を恐れず、一歩踏み出した過去の自分に、心から感謝しています。「Sea Through」も「Voice Memo AI」も、私にとって「挑戦の記録」であり「失敗の積み重ね」でした。でも、だからこそ、その挑戦には嘘がない。自分自身の手で積み上げてきた時間が、確かな証明になっています。もし今、あなたが挑戦の途中でつまずいていたとしても、どうか覚えていてください。その失敗は、未来のあなたにとって、最高の財産になるはずです。
おわりに
「Sea Through」のリリースは、5年間の挑戦と失敗の結晶でした。「Voice Memo AI」は、孤独な開発の中で無数の試行錯誤を積み重ねた証でした。これらの経験を通じて学んだのは、挑戦に正解はないということです。でも、挑戦をやめることだけは、絶対に正解ではない。失敗を恐れず、むしろ愛し、挑戦し続ける人生を選びたいと思います。このコラムが、皆様の挑戦に寄り添う小さなエールになれば幸いです。次回は、「『努力できない』『集中できない』『勉強が苦手』は全部ウソだ。本当の自分をごまかすな」をテーマに、“やれないのではなく、やらないだけ”というシンプルで厳しくも温かい真実をお届けします。どうぞお楽しみに。
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