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コラム

海外ビジネスの指南役! 小田切社長の連載コラム.30

「海外展開を進めていくうえで、特に現地の人の気質やものの考え方が知りたい」。そんな声にお応えして、海外ビジネスの経験を豊富に持つ(株)サザンクロスの小田切社長が、世界各国の国民性を解説!より良い人間関係を構築することは、ビジネスの大きな成果へとつながるはずです。第30回は、海外の国々における代表的なビジネス習慣や商慣習について、タイ編・後編をご紹介します。

皆様、こんにちは。(株)サザンクロスの小田切武弘です。本誌の2020年9月号から、海外でビジネスを進める際の現地ローカルスタッフへの接し方や、仕事の依頼の仕方、スムーズなコミュニケーションの取り方などにフォーカスしたコラムを連載し、このシリーズでは皆様から特にご要望が多かったタイ国関連のコラムから始まり、韓国、米国、中国、インド、ロシア、アラブ諸国と連載を続けてまいりました。

2024年5月号からは、海外の国々における代表的なビジネス習慣・商習慣について米国、オーストラリア、シンガポール、中国、韓国編を執筆しました。今号では読者の皆様からご要望の多かったタイ編の後編として、タイ人の気質や文化などに関連するビジネス習慣・商習慣について述べてまいります。今後UAE、トルコ、ドイツ、ロシアを今のところ予定しています(ご要望の国がありましたら、可能な限りお応えいたします)。

①プライドが高い

このサブタイトルはもしかすると誤解をされかねない表現になるかもしれませんが、タイ人は基本的に見栄っ張りで、他人からの自分の評価を特に気にする国民性を持っています。それは富裕層や高学歴な層の社会的差別、というものではありません。何か自分が間違えてしまったり、間違いを指摘されたりすることを回避したいという言動が目立ちます。例えば、じっと黙って事が収まるまで下を向くなどです。そのため、仕事上でタイ人に指摘をする場合は必ず他人のいない別室に呼び出し、冷静に静かな声で、「何が良くなかったのか」「同じ間違いを繰り返さないためにはどうするのか」を話し合うことが重要になります。また、相当な大事でもない限り、決して謝罪の言葉を言うこともないでしょう。これは、欧米のように、謝罪をしたらすべて自分が悪いと認めることになるという価値観が、ほとんどの人に根付いているためだと考えられます。

また、このような言い方は礼を失した言い方かもしれませんが、そうした傾向は、多くのタイ人がその日暮らしを強いられ、経済的にも心情的にも余裕がないため、万が一自分の責任になって失職したり損をしたりしたくないという自己防衛意識が強くあることも大きな一因ではないかと筆者は考えています。

②報連相なし、謝罪なし

タイ人は老若男女を問わず、報連相を行う方が極めて少ないように感じられます。プロジェクトの節目や突然の変更、客先からの問い合わせに答えられないなどのケースでも、他の人に確認や相談をすることはありません。また、1つの業務が終了してどのような結果が出ても、積極的に報告をすることや、合間の細々とした連絡なども少ないです。

当然のことですが、ビジネスにおいては報連相が大切です。そのため、タイ人と一緒に仕事をする場合には細かなことでもこちらから確認を入れたり、相談しやすい環境をつくったりすることが重要になります。

③キャリア志向か家族優先か

タイ人は宗教上の理由もあって家族を大変重要視しています。例えば日本人駐在員がいるタイの日系企業で、テキパキ業務をこなし、報連相もできる優秀な若手社員がいるとします。とても成績優秀なので、直ぐにマネジャーに登用してあげようとすると、「自分は昇給や昇格よりも責任が少ないほうがいい」「両親の面倒を見てあげたいので、定時で帰りたい」という理由でその話を断る社員もいます。

ただ、近年では昇給を強く望んでいたり、自分の仕事上の夢をかなえるべくジョブホッピングをする人も多くでてきました。そのため、現在共に働いているタイ人ビジネスパーソンがキャリア志向型かそうでないかを判断できるよう、コミュニケーションを普段から取っていくことが大切です。

④逆算した計画がつくれない

どのような仕事であっても、納期が存在します。納期通りに業務を進めるためには、決まった期日から逆算して、5W1Hを明確にしながら1日刻み、より細かくするのであれば分刻みで計画を立てていく必要があります。しかし、タイ人の多くはこうした納期から逆算してスケジューリングすることが苦手です。従って日々の業務進行は、“足元すら見えないその日暮らし”になり、優先順位がわからず、記憶にあることや目の前にあることから手を付けることの繰り返しになるケースが多いです。この点がタイ人のビジネスパーソンの中で最も顕著な特性であると筆者は考えています。そのため、ずさんな計画にならないよう、常に業務のスケジュールの確認と実行を徹底し、それらを安定してできるように導いていくことが肝要です。

⑤LGBTQについて

近年では全世界の国々で本件が論じられていますが、タイにおいては、2024年に同性婚が認められました。タイではどのような業界でもLGBTQに該当する方がいらっしゃいます。一般企業や病院、レストランなどでも、周囲の人々も特別視することなく普通に一緒に仕事をしています。

筆者が言わんとしているのはつまり、うかつにお客様とお会いした時に英語で「Mr. A……」「Miss B……」と言わない方が無難だということです。筆者は日頃から、タイ語で「~さん」にあたる“クン”をつけたり、日本語で「~さん」をつけたりして話すようにしています。

⑥無意味な会議が多い

2023年7月号のタイ関連のコラム中にも記載しましたが、タイ人は基本的にメモを取りません。オーナー経営の中小企業や貿易代理店、医療クリニックや美容クリニックなどでは、オーナーの鶴の一声で就業後の夜8時から突然社員を集め、勉強会と称してさまざまな議題でミーティングを始めます。事前のアジェンダや終了時間の報告もなく、議事録もとらない状態で、オーナーの気分で一方的に話が進んでいきます。スタッフは首を切られたくないために、何の意見も言わずにミーティングに参加しています。

ミーティング終了後も、内容をまとめる人がいないため、結果として翌日以降何の改善もされず、その状態を管理する人もいません。

筆者がタイで働いていた際には、こうした無意味な会議を業種を問わず数多く拝見してきました。このような会議を最小限に抑え、「業務改善ができた」「収益が上がった」「無駄な作業が減少した」という声が上がるような、効率的な会議となるべく舵取りをしていくことが、私たち日本人ビジネスパーソンには求められています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回はかなり辛口でタイ人のビジネス習慣について書いてきました。否定的に思われるかもしれませんが、それでもタイはまだまだ日本にとっても伸びしろを残した友好国の1つです。日本も20年以上経済発展のとぼしい状態が続いており、さらに円安状態は改善できず日本の絶対的、相対的な国力は低下し成長を続けている東南アジア諸国との差が日々縮小しています。

また海外進出以外でも国内の経営方針や人財育成、人事評価制度の仕組みの再構築、人事諸規定の改編についても、現在多くの依頼をいただいています。当社としても皆様のそれぞれのご要望に合わせて業務のお手伝いをさせていただきたく存じます。「タイで事業を始めたい」「タイに新たに進出してみたい」「国内での人事方針を見定めたい」というお客様がいらっしゃいましたらぜひ当社ホームページよりご連絡をいただければと思います。次回はUAE(アラブ首長国連邦)のビジネス習慣・商習慣についてお伝えしてまいります。どうぞお楽しみに。

■プロフィール
株式会社 サザンクロス
代表取締役社長 小田切 武弘

海外志向が強く、学生時代に海外留学を経験。学業修了後は、大手電気機器メーカーや飲料・食品メーカー、総合商社など数社にわたって、米国、インド、韓国、東南アジアといった諸外国に駐在。その中で、海外でのビジネスに苦戦する日本企業の存在を知り、自らのノウハウを提供したいという思いが芽生える。2017年7月7日、企業の海外展開をサポートする(株)サザンクロスを設立した。
 
http://sc-southerncross.jp/

 
 

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