コラム

人生100年時代と言われ、仕事でもプライベートでも、自分の夢や目標を達成するまでには長い時間が残されているように感じられる現代。しかし時間の有限性を意識せずにぼんやりと過ごしていると、時というものはあっという間に過ぎ去ってしまう――そんな着眼点から、時間をいかに有意義に使うかを助言しているのが、Time Craft Consultantの奥村哲次氏だ。当コラムでは、大病を乗り越え自らの決意と行動によって成功をつかんできた同氏から、ビジネスに必要不可欠な「マインドセット」について学んでいく。
皆様、いつも大変お世話になっております。(株)ラフティ代表取締役、奥村哲次です。人生において「幸せに生きる」とは、何を意味するのでしょうか。収入の多さや、地位の高さでしょうか。それとも、自由な時間や人間関係の豊かさでしょうか。私自身、がんの闘病や経営の試練を経て実感したのは、「自分の時間をどう過ごすか」が、人生の幸福度を決めるということでした。
今回は、著書『乗り越え力』で語ったエッセンスをもとに、「幸せに生きる力」を育てるための考え方を、4つの数式でご紹介します。日常の苦しみや退屈さを、どうすれば幸せへと変換できるのか――そのヒントになれば幸いです。
1. 退屈な仕事 × 工夫 = 楽しい仕事
日々の業務において、「つまらない」「単調すぎる」と感じる仕事は誰にでもあります。特にルーティン業務や、明確な成果が見えにくいサポート系の仕事ほど、やりがいや達成感を得るのが難しくなりがちです。しかし、その“退屈さ”に対して「工夫」というスパイスを加えることで、仕事は驚くほど楽しく、創造的なものへと変化します。
私はかつて、全国2000店舗以上に展開されたセルフレジを統括するシステムエンジニアとして、日々、各店舗から寄せられるセルフレジや周辺デバイスの不具合対応に追われていました。原因調査、ベンダー調整、進捗管理――そのすべてが人力で、問い合わせ件数は膨大。終わりのない戦いに身を置いているような日々で、心がすり減っていくのを感じていました。そんな時、ふと思い出したのが、かつて使っていたバッチ処理やVBスクリプト、そしてメール送信用のアプリケーション「basp21」でした。「この苦しみを、仕組みで変えられないか?」そう自問した私は、自らの手で業務全体を自動化・最適化するシステムの開発に着手しました。
まず、セルフレジに付随する各デバイスのエラーログを店舗サーバーから本部サーバーに自動転送し、本部側にある端末識別マスタと連携させて、どの端末でどのエラーが発生しているかを即時把握できる構成に。さらに、該当ベンダーに自動で通知が届く仕組みを組み込んだことで、ベンダー側は店舗からの問い合わせ前に先回りして対応できるようになり、私はCCに入った通知メールを受け取るだけで、全体の流れを把握できるようになりました。
この改善によって、問い合わせ件数は激減。かつて“苦痛の塊”だった仕事が、いつの間にか“趣味のように楽しめる業務”へと変わっていました。仕組みが正しく回るたびに小さな達成感が得られ、システムを眺める時間すら嬉しく感じるようになったのです。
退屈な仕事ほど、工夫の余地があり、工夫を重ねることで“自分だけの創作活動”へと変えていくことができます。そして、その創作活動が人生の大半を占める「仕事の時間」を、楽しく価値ある時間へと変えていく。“幸せに生きる力”の第一歩は、「つまらない仕事に楽しさを生み出す視点」を持つことなのかもしれません。
2. 苦しみ × ありがとう = 成長
「なぜ自分ばかりが、こんなに苦しまなければならないのか」。誰しも一度は感じたことがあるでしょう。ある日、88歳のおばあさんが言った言葉が、私の心を震わせました。「苦しみを“ありがとう”と言えるようになりたい」―─この言葉には、人生の本質が込められていると感じました。苦しみの中にこそ、深い学びがあり、心の成長があります。「ありがとう」という言葉に変換することで、過去の痛みが、自分の糧となっていくのです。
3. 作業指示 × ゴール確認 = 成果向上
「何のためにこの作業をしているのかわからない」と感じる時は、仕事が苦痛になりがちです。しかし、指示された作業に対して、自分自身で「ゴール(目的)」を確認し直すだけで、アウトプットの質も満足度も一気に高まります。過去に、数字の羅列をグラフにまとめるだけの業務を任されたことがあります。そこで私は、「このグラフで誰の意思決定が変わるのか?」を考え、自分なりに再設計しました。結果、クライアントから「これはありがたい」と感謝され、成果とやりがいが同時に得られました。目的意識は、作業を“意味ある時間”に変える力があります。
4. 現在地 × 挑戦 = 自己理解
幸せとは、「自分らしく生きること」とも言えます。では、自分らしさとは何か? それは「自分の現在地を知り、そこからどこへ進むか」を選び取ることです。
サーフィンをしていると、「今の自分には、この波は大きすぎる」と感じる瞬間があります。逆に、「これはいける」と思って乗る波は、たとえ失敗しても納得感があります。同じように、挑戦を通じて自分の限界や強みが見えてくると、「本当に自分がやりたいこと」がわかってくるのです。それは、他人ではなく、自分自身と向き合うことから始まります。
まとめ
「幸せに生きる力」とは、特別な環境や才能によって生まれるものではありません。日々の小さな気付きと工夫、そして視点の持ち方で、誰もが育てることができる“心のスキル”です。以下の4つの数式を、ぜひ日常に取り入れてみてください。
1.退屈な仕事 × 工夫 = 楽しい仕事
2.苦しみ × ありがとう = 成長
3.作業指示 × ゴール確認 = 成果向上
4.現在地 × 挑戦 = 自己理解
幸せは、外から与えられるものではなく、自らの行動と思考で生み出すもの。このコラムが、皆様の「幸せに生きる力」を育む一助となれば嬉しく思います。次回は、「失敗を価値に変える力」についてお届けする予定です。どうぞご期待ください。
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