コラム

――(株)しんかさんは主にオフィス移転向けの不動産仲介を手がけていらっしゃるとうかがいました。まずは御社がコワーキングサロン「SLOTH」を始めた経緯について教えてください。

▲ 2Fのコワーキングスペース(ライブラリー)部分。過去の「SLOTH FRIDAY」では、このライブラリースペースで馬頭琴とアコースティックギターのライブが行われた。また、地域のイベント開催時にも一般に開放される
久田 当社は、約10年前にリーシングをサポートしたことを契機にこのビルと関わるようになりました。コロナ禍のタイミングで、2Fのテナントだったアパレルブランドさんが退去することになり、それをきっかけに改めて、「自分たちらしい形で新しいことができないか」とオーナーと話し合ったんです。コロナの影響で、ZoomやGoogle Meetなどのツールが普及し、対面で会話する機会が減りました。そうしたツールは確かに便利です。ただ、一方で私たちは「多くのクリエイティブは、偶発的な出会いや、ふとした会話から生まれるものだ」と感じていました。そこで、「クリエイティブな日常を共につくる」「共に働きながら談話をするための場所」「感性の合う仲間が集う」をコンセプトとする当施設を立ち上げたんです。私たちは「SLOTH」を、単なる作業スペースではなく、互いの感性が響き合い、新たなクリエイティブが生まれる場所にしたいと考えています。そして、そのエネルギーを地域活性化にもつなげていきたい、というのが今の思いですね。
――「SLOTH」さんは、一般的なコワーキングスペースとは違って、とても開放感のある空間ですよね。先ほど挙げていただいたコンセプトが、空間づくりにも反映されているのでしょうか?

▲ オンライン会議ができる個室のWebブース。アパレルブランドで試着室として使われていたスペースを生かしている
久田 ええ。アパレルブランドさんの内装を生かしつつ、開放感とコミュニケーションを重視した空間にしました。カーテンや鏡を活用している他、大きな窓もあるので自然光を感じながらリラックスして作業に取り組んでいただけます。また、バー・カフェスペースには、環境音と調和するオリジナルのBGMを流しています。これには周囲の雑音を聞こえにくくしたり、会話を促したりする目的があります。無音ではどうしても会話しづらくなってしまいますからね。
――音の部分にまで気を使われているとは驚きです!「SLOTH」は主に、どのような業種の方が利用されているのでしょうか?
久田 IT系やクリエイティブ職の方に主にご利用いただいています。フリーランスの方が多いですが、法人で契約していただいているケースもありますね。複数人で使えるミーティングルームや、オンライン会議ができる個室のWebブースもあるので、その時々のニーズに合わせて柔軟に使い分けていただけます。
――「SLOTH」さんには、日々の運営を担うコミュニケーションマネジャーが常駐されています。コミュニケーションマネジャーという役割も「SLOTH」という場所を形づくるうえで非常に重要ですよね。

▲ 2Fのバースペースでは、日中は「WAVY COFFEE ROASTERS」が営業しており、メンバーは1日25名まで無料で「本日のコーヒー」が楽しめる。この取り組みを始めたのも「『WAVY』スタッフと『SLOTH』メンバーとの間に交流が生まれるように」という思いからだったという
久田 そうですね。「SLOTH」では、「運営者」と「利用者」という垣根を超えて、コミュニケーションマネジャーとメンバーの方々がフラットな関係を築いています。「一緒にコミュニティをつくっていく」という視点を大切にしており、コミュニケーションマネジャーが主体となって、定期的に「SLOTH FRIDAY」というオープンパーティも開催しているんです。過去には、人気飲食店のポップアップ出店やライブ演奏、ライブペインティングなど、さまざまな企画を実施してきました。このパーティをきっかけに、「SLOTH」の存在や雰囲気を知っていただければと思っています。
――「SLOTH」ではレンタルスペースも提供されています。こちらについてもおうかがいできますか?

▲ 2Fギャラリー[写真左上]、屋上[写真右上]、6Fテラス[写真左下・右下]。屋上では、夏になると神宮球場で上がるナイターの花火が見られることもあるのだとか。テラスの室内にはシャワーも完備している
久田 「SLOTH」では、1Fのエントランス、2Fのギャラリー・バースペース、6Fのテラス、屋上と、多彩なスペースを用意しています。1Fや2Fは主にアパレルブランドの展示、6Fはウェルネス事業やセミナーなどでご利用いただいています。また、屋上では手ぶらでバーベキューを楽しむことができるんですよ。レンタルスペースがあることで、メンバーの方々はもちろん、コミュニケーションマネジャー、地域の方々、個人・法人の方々、それぞれがやりたいことを形にすることができます。お互いの好きなことを通じて交流を深めたり、新たなつながりを構築できたりする点が「SLOTH」の魅力だと思っています。
――そのつながりを地域活性化にも生かしていきたい、ということですね。
久田 はい。私は不動産仲介を通じて、このエリアでビジネスをしている社長さんや、物件のオーナーさん、入居者さんと直接やり取りをさせていただいています。さらに、この物件のオーナーは「渋⾕公園通り協議会」の理事を務めていらっしゃるんです。そうしたネットワークを生かして地域活性化に貢献するべく、2024年11月からは、神南地域を愛する皆さんが集う「JINNAN HORENSO」という会を主催するようになりました。この会の参加者は主に、地域で経営や施設運営をされている方々です。「神南をより良くしたい」という思いを持って集まった方々同士の偶発的な出会いやコミュニケーションから、新たなアイデアやプロジェクトを生み出し、神南の活性化につなげていければ嬉しいですね。そして、「神南といえば『SLOTH』」と言っていただけるようになったら、日本各地で、地域を盛り上げるコミュニティづくりにも挑戦していきたいです。
写真:坂本 隼
画像提供:COWORKINGSALON SLOTH JINNAN
「SLOTH」は、動物のナマケモノのこと。久田氏によると、ナマケモノは「自らの体に蛾を寄生させ、そのふんに生えた藻を食べるという独自のエコシステムを持ち、移動中に銃声が鳴っても反応しない、流れの速い川を泳いで渡るなど、自分のペースでやりたいことを貫く姿勢を持つ生き物」だという。ナマケモノの生き方に着想を得て付けられた「SLOTH」という名称には、「ここに集う人々が他者との共生の中で、生き生きと個性を発揮できる場所にしたい」という思いが込められている。

▲ 施設内にはナマケモノモチーフの装飾が
![]() 久田 友彦 1981年東京都生まれ、沖縄県育ち。東京農業大学卒業後、2005年に(株)グラントコーポレーションに入社。2009年に(株)ワンプラスワンを設立し、代表取締役を務めた後、2016年に(株)しんかを設立。企業の成長支援を軸にオフィス仲介・シェアオフィス運営を展開している。 COWORKINGSALON SLOTH JINNAN 【所在地】 〒150-0041東京都渋谷区神南1-14-7 ワイズ神南ビル 2F 【利用可能時間】 9:00〜19:00(ドロップイン) / 7:00~24:00(メンバー) 年末年始以外は毎日営業 【URL】 https://sloth.salon/ |