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コラム

海外ビジネスの指南役! 小田切社長の連載コラム.29

「海外展開を進めていくうえで、特に現地の人の気質やものの考え方が知りたい」。そんな声にお応えして、海外ビジネスの経験を豊富に持つ(株)サザンクロスの小田切社長が、世界各国の国民性を解説!より良い人間関係を構築することは、ビジネスの大きな成果へとつながるはずです。第29回は、海外の国々における代表的なビジネス習慣や商慣習について、タイ編・前編をご紹介します。

皆様、こんにちは。(株)サザンクロスの小田切武弘です。本誌の2020年9月号から、海外でビジネスを進める際の現地ローカルスタッフへの接し方や、仕事の依頼の仕方、スムーズなコミュニケーションの取り方などにフォーカスしたコラムを連載し、このシリーズでは皆様から特にご要望が多かったタイ国関連のコラムから始まり、韓国、米国、中国、インド、ロシア、アラブ諸国と連載を続けてまいりました。

2024年5月号からは読者の皆様からご要望が多かった、海外の国々における代表的なビジネス習慣・商習慣について米国、オーストラリア、シンガポール、中国、韓国編を執筆しました。今号では読者の多くの皆様からご要望の多かったタイ編の前編として、日常的なビジネス習慣・商習慣について述べてまいります。今後UAE、トルコ、ドイツ、ロシアを今のところ予定しています(ご要望の国がありましたら、可能な限りお応えいたします)。

はじめに

タイ王国。最新の外務省各国データによると、51万4,000平方キロメートル(日本の約1.4倍)の国土に人口が約6,609万人。*1 タイ族をメインに中華系、マレー系の民族で構成され、言語はタイ語です。宗教は仏教が94%、イスラム教が5%となっています。名目GDPは5,135億ドルで、1人当たりのGDPは7,331ドル、経済成長率については1.9%です。*2 消費者物価指数は2022年6.1%、2023年1.2%。*3 タイの主要産業は製造業で、タイGDPの約30%となっています。農業は、就業者数ではタイ就業者全体の約30%を占めている産業ではあるものの、GDPシェアでは10%未満。タイ経済の柱は観光業で、コロナ以前の2019年には海外からの観光収入が605億ドルと世界第4位になりました。比較年度は異なりますが、日本の観光収入は2021年時点で、47億ドル。世界第29位となっています。*4 また注目するポイントとして、日本円とタイバーツの為替レートについては、2020年1月(コロナの世界的な拡散の始まりの頃)10日時点のレートは1THB=\3.62、2023年1月10日時点(コロナのほぼ終焉になる頃)のレートは1THB=\4.59と約27%もタイバーツ高になっています。

①ニックネームを使用

タイ人は名前が長く、また覚えにくいということもあり、対外国人のみならず同じタイ人同士でも、自身のファーストネームの短縮形やニックネームで呼び合うという習慣があります。日本人の名前はタイ人からすると呼びにくく、覚えづらい場合が多いので、名刺上にも自分のニックネームを書いておくと良い印象を与えます。

②書類は青いインク

タイの場合、役所関連機関、銀行をはじめとするビジネスシーンでは黒インクのボールペンではなく、青インクのボールペンでサインを行います。これは最近まで白黒コピーが主流であったため、黒いボールペンでサインをするとコピーしているものと間違えられてしまうため、防止策として青いボールペンでサインをする習慣になったようです。特に政府関連や銀行関連、法務関連の書類では黒いボールペンで記入しても受け付けてもらえない場合も実際にあります。

③西暦よりも仏歴での表示

タイで何か書類を記入する時、政府関連や銀行、タイ企業との契約書やオフィスの賃貸契約などは、仏歴で記載する場合が多くあります。これについても仏教の影響が強いためだと思います。西暦から仏歴に直すのには、西暦プラス543年と覚えておくと便利です。

④ビジネスにおける服装

タイは1年を通じて高温多湿です。そのため、街中を歩く時の直射日光を防ぐ必要があります。また、ビルやオフィス、店舗の中はエアコンが効きすぎている場合も珍しくありません。そうした環境への対策として、タイ人のビジネスパーソンは基本的に、制服着用以外の場合には、下はスラックス、上は長袖のワイシャツを着ている場合が多いです。

私たち日本人ビジネスパーソンも基本的にネクタイやスーツを着用する必要はなく、半袖や長袖のワイシャツを着用していればまったく問題はありません。ただし、暑い中でもネクタイと上着を着用していると印象は格段に良くなります。また運転免許試験場や政府機関に出向く場合には短パンを着用すると入館させてもらえないので、普通の丈の長いパンツを着用することになります。

⑤服装の色に意味がある

タイの場合には、服装の色に意味があるものがいくつかあります。例えば黄色や紫にはタイ王室を敬うという意味があります。青や黒はどちらかというと保守系で、赤は革新系などのイメージです。現在は政治状況が安定していますが、2014年にプラユット前首相がクーデターを起こし、新政権を樹立。同氏が2023年に引退するまでの期間やその後のタイ総選挙の時などは、タイ人が着ている服装でその人がどのような政治意識を持っているか理解することができました。

⑥年に数日の禁酒日がある

タイでは年間カレンダーの中で、年に5日程度禁酒日・アルコール類販売禁止日があります。たまたまその日にお客様や職場の同僚と飲みに行ったとしてもホテルやレストランではアルコール類の提供はありません。またこれは毎日ですが、スーパーやコンビニ、酒類販売店においてアルコール類を販売して良い時間は11時から14時、17時から24時となっています。15時にスーパーに行くと、アルコール類の販売コーナーの照明が消えていたり、カーテンがかかっていたりします。

⑦会社諸規定の未整備

タイ政府関連機関、タイの大企業、日系や外資系企業の場合を除き、タイには多くの零細企業や、大手であってもオーナー経営の会社が多く存在します。これらの企業にほぼ共通している点は、仕事をするにあたってのバイブルとなる就業規則や人事諸規程が未整備であることです。中には、明確に文章化された社員との雇用契約書すらない企業が多く存在します。特にオーナー経営のクリニックやガテン系の会社、零細自営業者などではほぼすべてが口約束ベースでの雇用契約からはじまり、オーナーに都合の良いように、タイの労働法規を逸脱した就業形態で仕事をさせている会社が目立ちます。使う側と使われる側の力の差が歴然と表面に現れる印象が強いです。シフト制を取っている会社でもその日になってみないと勤務時間表すらつくれない、当月の月間休日すらわからない、すべてその日その時になってみないとわからないといった状況の中で働いている人で成り立っている社会と思っても間違いはありません。表面上では東南アジアで最も元気な国で、経済成長も順調だと思われがちですが、実のところは未熟な点も多々あります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回はタイ人ビジネスパーソンのビジネス習慣・商慣習ということで、特に現在のタイの現実に焦点をあててまとめてまいりました。タイ人と日本人は大きく異なります。それは当然、文化も歴史的背景も民族も違うので当たり前のことです。私たちはそこまで相手をわかったうえで、いつも胸襟を開き正しく、優しく、誠意を持って粛々と良い関係を継続していけるように対応することが重要であると思います。

次回はタイ編の後編として、タイ人の気質や文化などに関連するビジネス習慣・商習慣について述べてまいります。どうぞお楽しみに。

参照:*1「2022年タイ内務省データ」
  2「2023年タイ国家経済社会開発委員会データ」
  3「タイ商務省データ」
  4 国土交通省データ:第Ⅰ部 令和4年 観光の動向

■プロフィール
株式会社 サザンクロス
代表取締役社長 小田切 武弘

海外志向が強く、学生時代に海外留学を経験。学業修了後は、大手電気機器メーカーや飲料・食品メーカー、総合商社など数社にわたって、米国、インド、韓国、東南アジアといった諸外国に駐在。その中で、海外でのビジネスに苦戦する日本企業の存在を知り、自らのノウハウを提供したいという思いが芽生える。2017年7月7日、企業の海外展開をサポートする(株)サザンクロスを設立した。
 
http://sc-southerncross.jp/

 
 

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