コラム

「海外展開を進めていくうえで、特に現地の人の気質やものの考え方が知りたい」。そんな声にお応えして、海外ビジネスの経験を豊富に持つ(株)サザンクロスの小田切社長が、世界各国の国民性を解説!より良い人間関係を構築することは、ビジネスの大きな成果へとつながるはずです。第28回は、海外の国々における代表的なビジネス習慣や商慣習について、インド編をご紹介します。
皆様、こんにちは。(株)サザンクロスの小田切武弘です。本誌の2020年9月号から、海外でビジネスを進める際の現地ローカルスタッフへの接し方や、仕事の依頼の仕方、スムーズなコミュニケーションの取り方などにフォーカスしたコラムを連載し、このシリーズでは皆様から特にご要望が多かったタイ国関連のコラムからはじまり、韓国、米国、中国、インド、ロシア、アラブ諸国と連載を続けてまいりました。
2024年5月号からは、海外の国々における代表的なビジネス習慣・商習慣について米国、オーストラリア、シンガポール、中国編、韓国編を執筆しました。今号では読者の皆様から再度ご要望の多かったインドについて述べてまいります。今後タイ、UAE、トルコ、ドイツ、ロシアを今のところ予定しています(ご要望の国がありましたら、可能な限りお応えいたします)。
はじめに
インド共和国。略してインド。最新の外務省各国データによるとインドの主要産業は農業、工業、IT産業で1人当たりのGDPは2,485ドル(*1)、物価上昇率は5.02%(消費者物価指数)(*2)、GDP成長率8.2%(*3)。総人口が中国を追い越し、実質世界一の14憶人で割れば1人当たりのGDPは低いもののGDP成長率は依然高水準を維持しています。

▲各国の成人人口を所得順に並べた時に占める所得の割合(2022 年)パリ経済大学世界不平等研究所のデータを基にジェトロ作成(*4)
インドの個人の所得水準についてジェトロの説明を引用すると、「大きな格差があり、特に都市部には厚い富裕層が存在するのも特徴である」「インドでは、所得上位1%の人口にインド全体の所得の約23%が集中する。この割合は日本(約13%)、中国(約16%)、インドネシア(約15%)、ベトナム(約16%)などアジア各国よりかなり大きく、また、経済格差が大きいことで知られる米国(約21%)、ブラジル(約20%)、南アフリカ共和国(約19%)と比較しても高い。この背景には、個人の教育水準や職種によって給与水準に大きな隔たりがあることに加え、代々受け継がれるネットワークを活かしてビジネスを大きく成功させている財閥や実業家の存在などが挙げられるだろう。当然ながら、各々の所得水準によって生活スタイルには大きな違いがあり、求められる製品やサービスも全く異なる」となっています(*4)。これはどの国においても同様ですが、インドの場合にはビジネス習慣や商習慣にもこの点が大きく影響していると考えられます。
①相手を信用する優しさを
海外からの顧客と新たな取引を始める場合は、インド人は相手を多角度から観察し、商談の最中でも面前の顧客の心の内を読み取ろうとしています。少し極端な言い方になってしまいますが、日本人のように、「相手が同じ日本人だから大丈夫であろう」という気持ちはインド人には毛頭ありません。これは、宗教や旧カースト制度による身分の違い、食習慣の違いがあるためです。相手に対して心を開き、信用して取引を無事始められるか、既存の顧客であっても次の取引が問題なく進められるのか、という不安や危惧を抱きながら商談をしています。これは業界やビジネスの大小を問わず、インド人ビジネスパーソン共通のことです。したがってインド人とのビジネスは相手を推し量る意味でさまざまな会話、確認がなされ、ともすればねちっこく感じることも多くあります。多民族、多宗教、多言語、旧カースト制度を持ったバックボーンのインド人と、ほぼ単一民族、単一宗教、ほぼ同様の生活習慣というバックボーンを持った日本人とでは考え方が大きく異なるのは当然ですね。そのような背景を理解することで、どう対応すればインド人が理解、納得してくれて商談を成立させられるかを考えることができます。
②インフラと時間のルーズさ
インドでは主要都市間の交通事情が改善されてきてはいるものの、日本の約9倍に相当する広い国土があるため、道路の未整備・未舗装が大きな問題となっています。鉄道にしても同様です。主要都市であるデリーやムンバイにおいても、日本の東京や大阪のように便利な鉄道路線網やバス路線網もありません。また、大雨やハリケーンなどの天候悪化によって道路の冠水が頻繁に起こります。どの街やエリアにおいても、低所得者層がほとんどであるため貧困層によるスラム街が発生し、機能的で便利な街づくりからは立ち遅れてしまっていす。加えてここ10年、大幅に伸びた交通量のため大渋滞も発生しています。また、最近では多少安定してきているものの、電力生産が圧倒的に不足しているため、インドでは道路舗装の未熟さも手伝い、安定した物流を維持することが大変です。
そうした状況が影響し、ビジネスでも人との約束でも、日本のように時間を正確に守ることが物理的に困難です。一昔前までは携帯電話もなく、車での移動も現在ほどではなかったこともあり、インド人はとにかく時間や約束に徹底的にルーズです。ただし、国を代表する大企業、外資系企業などでは逆に徹底的に厳しい時間管理をしている場合も多くあります。
③日常茶飯事の転職
インドでは基本、転職は頻繁に行われています。欧米やその他アジア諸国のようにジョブホッピングが盛んに行われるようになってきました。昨日まで普通にデスクを共にしていた社友が次の日の朝に突然退職、転職するケースは多くあります。主な理由としては通勤距離や時間が長い、仕事がつまらなくなり飽きた、ファミリーで健康の思わしくない方が現れたなどが多くありましたが、昨今では他企業のほうが給与条件が良く、面接したらたまたま合格したという理由が多数を占めます。突然の転職により社内での引継ぎがままならなくなり、外部的には顧客と信頼関係を持ち始めていたにもかかわらず、挨拶もなくいなくなってしまったことに対する社内の負担は大きいものでしょう。これは昨今のインド人ビジネスパーソンのビジネス習慣の1つにもなっているので、良いインド人のビジネスパートナーが見つかったからといって深入りしてしまうことのないように留意したいものです。要はもちろん相手を信じ誠実に対応をしていくものの、絶えずこれは「一期一会」のビジネスチャンスだと思って臨むようにすればよいと思います。
④まとめ
いかがでしたでしょうか。前述したようにインド人と日本人の感覚は大きく異なります。それは、インドという国の持つさまざまな状況・問題に起因しています。日本人である私たちはそこまで相手の文化を理解して、従来通り優しく粛々と良い関係を構築、継続していけるように対応することが重要です。インドは人口も多く、まだまだ日本企業が進出できる大きな余地を残しています。日本は円安傾向が進み、国内のガソリンや食材なども価格が高騰し、賃金は一向に増えない厳しい経済環境が続いています。インドに新たに進出してみたいというお客様がいらっしゃいましたら是非ご連絡をいただければと思います。幸い日本とインドは以前より友好関係が続き、大きな懸案事項もありません。海外進出以外でも国内の経営方針や人財育成、人事評価制度の仕組みの再構築、人事諸規定の改編についてここ2年、多くの依頼を頂戴しておりますので、ぜひ皆様のお手伝いをさせていただれければありがたく存じます。当社ホームページのお問い合わせ欄より皆様のご希望をお聞かせください。
次回はタイのビジネス習慣・商習慣についてお伝えしてまいります。お楽しみに。
参照:*1「2023年:世銀資料」
*2 「2023年9月:インド政府資料」
*3「2023年:世銀資料」
*4「ジェトロ2024年8月23日付レポート「インド14憶人市場B to Cビジネス(1)」

株式会社 サザンクロス 代表取締役社長 小田切 武弘 海外志向が強く、学生時代に海外留学を経験。学業修了後は、大手電気機器メーカーや飲料・食品メーカー、総合商社など数社にわたって、米国、インド、韓国、東南アジアといった諸外国に駐在。その中で、海外でのビジネスに苦戦する日本企業の存在を知り、自らのノウハウを提供したいという思いが芽生える。2017年7月7日、企業の海外展開をサポートする(株)サザンクロスを設立した。 http://sc-southerncross.jp/ |